「医」の最前線 AIと医療が出合うとき

医学生はAIに関心を抱く
~次代の医師に求められる新しいスキル~ (岡本将輝・ハーバード大学医学部講師)【第20回】

 医療分野におけるAI利用は急速に進むが、未来の医療を担う医学生たちもこの新技術への期待を大きくし、自ら積極的に関わろうとする姿勢が明らかになりつつある。今回は、医学生のAIに対する意識・態度にまつわる近年の研究成果と、医学生を取り巻く環境変化についての事例を紹介したい。

AIを活用した膵臓(すいぞう)のCT画像(富士フイルム提供)

AIを活用した膵臓(すいぞう)のCT画像(富士フイルム提供)

 ◇医学教育にAI領域の導入を望む

 医用画像解析をはじめ、医療AIに占める放射線科関連ソリューションは依然として最も勢力のあるものの一つだ。放射線科領域のトップカンファレンスである北米放射線学会(RSNA)においても、AI関連研究が毎年大量に公表され、注目を集め続けている。

 こういった中、米メリーランド大学の研究チームは、放射線科医・放射線科研修医・医学生のそれぞれにおいて、「放射線科AIに対する意識」を明らかにするための系統的レビューを行った。Academic Radiologyから2022年に公表されたこの研究論文(※1)によると、放射線科AIに対する意識を評価した19件の先行研究を分析している。放射線科医・研修医と医学生のそれぞれが、「一般的にAIについてもっと学びたい」「診療にAIを導入したい」と考えていた。また、興味深いことに「AIアルゴリズムの開発を手伝いたい」など、AIソリューションについて学び、自ら実装することにも強い関心を示していた。

 さらに、医学部および放射線科の研修カリキュラムにおけるAI教育の重要性を認識しており、実際、回答者の3分の2以上が「医学部や研修医プログラムにおいて何らかの正式なAIトレーニングが行われるべき」と考えていた。放射線科研修医を対象としたAI教育パスウェイは模索段階にあるが、RSNAのImaging AI Certificate Programに代表されるような、学会主導のAI教育プログラムもさまざまな事例が見られるようになっている。

 2010年代から始まった深層学習技術の高度発展に伴い、放射線科領域は医療AIの初期進出地点となったが、今後、この技術は臨床フローへの多大な影響をもたらすことが見込まれている。全体として放射線科医はAIによる代替を受ける立場ではなく、AIを効果的に利用する、またはAIを構築・管理する専門家へとシフトすることを望んでいることが見て取れる。また、「次代の医師はAIを避けて通ることはできない」との共通認識を反映し、現代の医学生は自身のキャリアプランにAIの存在をどう反映させるかも主要な悩みとなっている。

米テキサス大サンアントニオ校(同校HPより)

米テキサス大サンアントニオ校(同校HPより)

  ◇医学とAIの学位同時取得プログラム

 医師のキャリア構築に新たな選択肢を加えるものとして注目されるのが、デュアルディグリープログラム(二つの学位を同時取得するプログラム)を活用した専門性の強化だ。米テキサス大学サンアントニオ校(UTSA)や同健康科学センターは、医学とAIを組み合わせた米国初の学位プログラムを開始することを、23年9月に明らかにしている(※2)。ここでは、医学教育課程修了者が取得するMDと、人工知能科学修士号(MSAI)を同時に取得する5年間のMD/MSプログラムを形成する。修了生は「診断と治療の成果を向上させるAIの実用化を独自にリードできるようになる」という。

 MD/MSプログラムのディレクターであるRonald Rodriguez教授は「医学とAIを組み合わせたカリキュラムを通じ、修了生は革新的なトレーニングで武装し、研究や教育、学界、産業界、医療行政における将来のリーダーとなるだろう」と述べており、修了生がヘルスケアの未来を形作る点を強調している。

 日本においては、人工知能科学修士課程を早期から提供する大学院として、立教大学大学院人工知能科学研究科が知られるが、当該コースに医師が入学・修了するケースが既にあるなど、日本の医師においても「AIに対する興味・関心」は高まっている。著者が運営に関与するウェブメディア「The Medical AI Times」でも、1.5万人を超える登録購読者のうち3割程度は医師となる。デュアルディグリープログラムの実現可能性は別にしても、夜間開講などにより、社会人学生を積極的に受け入れるAIコースの充実は、若手医師にとっても魅力ある選択肢の拡充となる。

 著者個人は「機序の分からない薬を医師が処方できないように、学習データの質やアルゴリズムの基本的な成り立ち、選択の妥当性、適用の限界などを理解できなければ、医療AIソリューションを臨床現場で適切に運用することは難しい」と考えている。AI時代の医師に求められるスキルはさらに広範になることは間違いない。生命を直接的に取り扱う特殊領域である以上、人間の医師が完全に役割を失うことは想定されないものの、学生のうちから積極的に新技術を学び、取り込もうとする者は、それだけ多様な成長機会と魅力的なキャリア形成に恵まれる可能性が高いだろう。(了)

【引用】
(※1)Santomartino SM, Yi PH. Systematic Review of Radiologist and Medical Student Attitudes on the Role and Impact of AI in Radiology. Acad Radiol. 2022. doi: 10.1016/j.acra.2021.12.032.
(※2)UTSA. Nation’s first dual degree in medicine and AI aims to prepare the next generation of health care providers.
https://www.utsa.edu/today/2023/09/story/UTSA-UT-Health-first-dual-degree-in-medicine-and-AI.html


岡本将輝氏

岡本将輝氏

【岡本 将輝(おかもと まさき)】
 米ハーバード大学医学部放射線医学専任講師、マサチューセッツ総合病院3D Imaging Research研究員、The Medical AI Times編集長など。2011年信州大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科専門職学位課程および博士課程修了、英University College London(UCL)科学修士課程修了。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員(DC2・PD)、東京大学特任研究員を経て現職。他にTOKYO analytica CEO、SBI大学院大学客員教授(データサイエンス・統計学)など。メディカルデータサイエンスに基づく先端医科学技術の研究開発、社会実装に取り組む。

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