「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~
5類移行後はハイリスク者対策が鍵 (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第60回】
新型コロナウイルス感染症が5月8日から5類に移行されるのに伴い、国内では感染対策の緩和に向けた動きが加速しています。5類移行の大きな理由は、国民の多くがこのウイルスへの免疫を獲得し、感染しても重症化しなくなったことが挙げられます。その一方で、高齢者や持病のある人は重症化のリスクがまだ高く、ハイリスク者と呼ばれています。この集団が日本では人口の約3分の1を占めており、5類移行後も感染対策をある程度継続する必要があるのです。今回は、対策緩和の中でハイリスク者をいかに守るかについて解説します。
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◇免疫獲得により重症者が減った
新型コロナウイルスの流行が始まった2020年初頭は、発病者の約2割が重症化を起こし、2%近くが死亡していました。これだけ大きな被害になったのは、ウイルスの病原性が高かったことや、私たちが未知のウイルスに免疫を持っていなかったためです。その後、ワクチンが開発され接種が進むとともに、21年末からオミクロン株の流行で感染者が急増し、多くの人々がこのウイルスへの免疫を獲得していきました。その結果、22年春ごろまでには、世界的に新型コロナの流行が制御されるようになりました。感染しても重症化することが少なくなっていったのです。この結果、欧米諸国を中心に感染対策の緩和が進められていきました。
一方、日本では厳しい水際対策が取られていたことやマスク着用者が多かったことなどで、感染者が本格的に増えてきたのは22年の夏以降でした。このため、感染による免疫の獲得は遅く、23年春にようやく欧米並みのレベルに達します。そして日本政府は、23年5月から新型コロナを5類感染症に移行し、感染対策を大幅に緩和することになったのです。
◇国民の3分の1はハイリスク者
このように新型コロナの流行は終息していませんが、最近では感染しても重症化しない病気になっています。ただし、これは若く健康な人の話であり、高齢者や持病のある人はハイリスク者と呼ばれ、新型コロナの感染により重症化するケースが今でも一定の割合で見られます。ハイリスク者は感染症全般への抵抗力が弱いこともありますが、新型コロナに特化した免疫も比較的早く減衰するため、重症化しやすいと考えられています。また、新型コロナの感染により持病が悪化することも影響しているようです。
では、このハイリスク者が国内にどれだけいるのか。高齢者を65歳以上とすれば約3600万人で、国民の30%に当たります。さらに、65歳未満でも糖尿病、狭心症、慢性気管支炎、腎臓病など慢性疾患のある人や高度肥満者、妊娠中の女性もハイリスク者に含まれます。つまり、国民の約3分の1がハイリスク者に該当するわけで、これほどの人々が新型コロナに感染すると、今でも一定の割合で重症化を起こし、死に至ることもあるのです。
こうしてみると、5類移行に伴う感染対策の緩和は、健康な若い人と国民の3分の1を占めるハイリスク者に分けて考えていかなければなりません。
◇それぞれの集団の対策緩和
まず、健康な若い人であれば、5類に移行した段階で感染対策を大幅に緩和することができます。マスク着用は流行が収束した時期ならほぼ必要なくなりますし、飲み会で大いに盛り上がることもできるでしょう。一つだけ注意していただきたいのは、新型コロナの症状があれば外出しないこと。症状が改善しなければ検査を受け、新型コロナと診断されれば一定期間は自宅療養をしてください。
一方、ハイリスク者の場合は、5類に移行しても感染対策をある程度継続する必要があります。たとえば、外出時にはマスクを持参し、人ごみに入るときや他人と会話をするときはそれを着用しましょう。外食する際には、あまり混雑していない換気の良い店を選ぶことが大切です。食事の時間もあまり長くならないようにしてください。旅行に行くことはできますが、移動中や滞在先での感染対策にも心掛けることが必要です。そして、ハイリスク者の場合、新型コロナを疑う症状が見られたら、早めに医療機関を受診して検査を受けるようにしましょう。
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(2023/04/13 05:00)