「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

5類移行後はハイリスク者対策が鍵 (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第60回】

ワクチン接種を受ける高齢者施設の入所者。感染を避けるために周囲の配慮も必要だ

ワクチン接種を受ける高齢者施設の入所者。感染を避けるために周囲の配慮も必要だ

  ◇ハイリスク者への思いやりも

 前段で、健康な若い人は対策を大幅に緩和できると説明しましたが、これにより、新型コロナに感染する人が一定数増えることは覚悟しなければなりません。ただ、健康な若い人は感染してもほとんど重症化しないので、数日、療養していれば回復するでしょう。その場合に大事な点は、感染をハイリスク者に拡大させないことです。

 例えば高齢者と同居している人は、家の中で高齢者に感染させてしまう可能性があります。それを防ぐには、健康な若い人も対策緩和をあまり急がないことです。飲み会があれば早めに切り上げて帰宅するとか、混雑した場所ではマスクをすることなども考えてください。もし自分に症状があれば、家の中でマスクをすることも検討しましょう。

 仕事場にもハイリスク者がいると思いますが、そういう人と話をするときには、日ごろからマスクをしておいた方がいいでしょう。これは、知らないうちに、相手に感染させてしまうことを防ぐための思いやりです。ハイリスク者もその点を理解して、仕事場で話をするときはマスクをするようにしてください。

 ◇ハイリスク者へのワクチン接種

 こうしたハイリスク者への対策として、政府は5月からオミクロン株対応2価ワクチンの追加接種を開始します。このワクチンは昨年秋にも接種をしましたが、それから半年以上が経過しているため、効果を増強するための接種になります。感染予防効果はあまり期待できませんが、重症化予防効果はかなり増強されるとされており、世界保健機関(WHO)もハイリスク者には追加接種を推奨しています。

 何回も接種を受けることに、うんざりしている人も多いと思いますが、追加接種で免疫を強化しておけば、ハイリスク者が感染しても重症化を抑えられます。この集団の感染対策をさらに緩和するためには、ぜひ追加接種を受けていただきたいと思います。
 
 5月8日の5類移行を目前にして、日本社会は対策緩和の流れに向かっていますが、人口の3分の1はハイリスク者であり、一律には緩和を進められないことをご理解ください。この集団の被害を抑えながら社会生活を回復させていくことが、これから先の新型コロナ対策の鍵になると思います。(了)


濱田特任教授

濱田特任教授

 濱田 篤郎(はまだ・あつお)氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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