「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

これからの新型コロナ
~「第二のインフルエンザ」か「風邪の一つ」か~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第72回(最終回)】

 新型コロナウイルスの流行が始まってから4年が経過しました。流行当初は未知の病原体として急速に拡大し、社会的にも大きな混乱が生じましたが、ワクチンや治療薬が開発されたことで、流行は次第に制御されるようになりました。では、これからの新型コロナはどのような呼吸器感染症になっていくのでしょうか。今回は新型コロナの今後の動向について考えてみます。

コロナへの懸念が薄れ、繁華街は忘年会などに繰り出す会社員らで混み合っている(東京・新橋)

コロナへの懸念が薄れ、繁華街は忘年会などに繰り出す会社員らで混み合っている(東京・新橋)

 ◇今冬の予測

 まず、新型コロナ流行の現状と短期予測を見ていきましょう。北半球の冬の到来とともに、北米や欧州では新型コロナの感染者数が増加傾向にあります。各国とも感染者の全数把握をしていませんが、救急外来受診者や入院患者などの指標で流行状況を判断しており、その数は次第に増えています。日本でも定点把握による患者数が12月になり増加していることを、厚生労働省が発表しました。これから本格的な冬のシーズンに入ると、北半球全体で流行が再燃することになるでしょう。

 現在流行している変異株は従来のオミクロン株ですが、今まで主流だったXBB系統からBA2.86系統(JN.1など)に置き換わりつつあります。最近の欧米や日本での調査結果を見ると、2割近くがBA2.86系統で、この割合は今後さらに増えていくと予想されます。BA2.86系統は変異箇所が多数あり、免疫逃避を起こしやすくなっていますが、病原性や感染力に今のところ大きな変化は見られていません。また、現在使用されているXBB系統のワクチンでも、重症化予防などの効果はある程度保持されていると考えられています。

 このように、今冬は新型コロナの流行が再燃するでしょうが、現状では深刻な健康被害を起こすことなく収束に向かうとみられています。

 ◇過去に類を見ない流行

 新型コロナの流行が始まったのは2019年12月で、人類には未知の病原体の世界的な流行になりました。しかも、流行当初は感染力だけでなく病原性が強く、重症化して亡くなる人も少なくありませんでした。欧米では医療機関に患者が殺到し、医療が崩壊するという悲惨な状況も生じました。こうした事態に、各国政府は国際交通を遮断し、社会生活を一時止めるなどの強い感染対策で流行の拡大を抑えました。

 人類は今までに数多くの感染症の大流行を経験してきましたが、未知の病原体が短期間で世界的に拡大するという状況は、少なくとも近代医学が確立した20世紀以降はありませんでした。つまり、新型コロナの流行は過去に類を見ないほどの感染症の流行だったのです。このため流行当初は、中世のペスト流行時にも用いた「患者の隔離」「検疫」「都市封鎖」といった古典的な対策で感染拡大をしのぎました。

 やがて20年末になるとワクチンが開発され、21年からは接種が本格的に始まります。さらに抗ウイルス薬の開発も進み、ようやく22年にはワクチンや薬剤を用いた近代医学による感染対策で、新型コロナの流行が制御されていきました。

 日本でも23年5月には新型コロナ感染症法の5類に移行され、社会的な感染対策から個人を中心にした対策へと変化してきたのです。

 ◇中長期的な動向

 こうした4年間の流行を経て、新型コロナは周期的な流行を繰り返しているものの、重症化は少なくなり、社会的に大きな混乱が生じる感染症ではなくなっています。これから先、新型コロナはどのような呼吸器感染症になっていくのでしょうか。

 私は「インフルエンザ型」か「風邪型」の二つのパターンを予想しています。インフルエンザ型とは毎年冬に大きな流行が繰り返されるパターンで、高齢者などでは重症化が起きるため、毎年、流行前にワクチン接種を受けておくことが推奨される感染症です。風邪型とは主に冬、時には夏などに小規模な流行が発生するパターンで、重症化することはほとんどなく、定期的なワクチン接種もあまり必要なくなります。実は風邪型の中には既知のコロナウイルスが4種類入っており、新型コロナウイルスが加わると5種類目になります。

 この二つ以外にも、2003年に世界的に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のように消滅するというパターンもありますが、新型コロナの場合、その可能性は低いでしょう。

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