「医」の最前線 高知大医学部「家庭医道場」

〔第2回〕「道場」経験者が村の医師に
回り道した経験、へき地医療の実情
―高知大医学部「家庭医道場」―

 高知大学医学部家庭医療学講座が地域医療について学ぶために主催する『家庭医道場2019in馬路村』の2日目。1日目に地域コミュニティで暮らす人々の生活について、じっくり学び、ようやく地域医療にフォーカスした内容に入る。医師、看護師をめざす学生が参加する家庭医道場だが、初日のプログラムに医療の医の字も出てこなかった。これは、「人々のLifeを理解してほしい。Lifeには生活、人生、生命という意味があるが、医学的な話は生命だけ。まずは、人々の人生の中で医療者がどうかかわっていくかを学んでほしい」という阿波谷教授の考えからだ。

馬路診療所の佐野所長(左)とスタッフ

 2日目に行われた地域医療に関する講演は、馬路診療所に今年4月に赴任した佐野真一医師(38)が担当。地域医療の魅力を語った。大学のOBであり、しかも在学中は何度も家庭医道場に参加していた大先輩。真剣なまなざしで話に聞き入った。

 ◇「美談ではない」

 佐野氏は、家庭医道場の参加者が実際に診療所で働く医師として帰ってくるという、村にとっては願ってもない存在。馬路村健康福祉課長の久保加奈さんは、「組織から派遣されてくる医師はいても、自分から希望して来てくれる医師はいませんでした。家庭医道場が実を結んで、本当にありがたい」と感慨深げに話す。

 しかし、佐野氏の口からは意外な言葉が出てきた。

 「馬路村の家庭医道場に参加して、恩返しのために診療所に来たという美談のような話ではぜんぜんないんです」

 ◇音楽の道を志し東京へ

 佐野氏は広島県の開業医の家に生まれた。高校卒業後は、都内の文科系の大学に進学。もともと音楽が好きだったこともあり、ロックバンドを組んでドラムとギターに明け暮れた。

 「ライブをしたりCDを出したりもしたんですが、音楽では食べていけるところまでいけませんでした」
 思い立ってインドを放浪。夜行バスでインドとパキスタンの国境あたりに差し掛かった時、バスジャックにあい、1日半拘束された。解放されると極度の緊張が解け、疲れが一気に出たせいか、ひどい高熱を出した。

 「現地で診療所を開いていたイギリス人の医師に救われました。海外にいて保険もないし、お金もない自分に、『体がよくなるまでいつまでもいていい』と言ってくれて。音楽もいいけど、医者という仕事も素敵な仕事だなと思いました」

馬路診療所

 ◇26歳で医学部入学

 広島の実家に帰ると、常に患者に優しく接する父親の姿があり、医師の仕事に魅力を感じるようになった。2年間の受験勉強ののち、26歳で高知大学医学部に入学。「臓器だけを切り取るのではなく、人間全体を診られる医療者を育てたい」という阿波谷教授の言葉に共感し、家庭医道場には、第2回目から卒業まで計8回参加した。

 卒後研修では、家庭医になる前にもう少し力をつけたいと、岡山と京都の病院で4年間、経験を積み、総合的な力を磨いた。

 「馬路診療所に来たのは、自分のキャリアの上で大事なことができると思ったから。最終的には実家の開業医院を継ぐので、総合医としていろんな場所で働いた方が役に立つ」と率直に話す。

 無類の「川好き」であることも、馬路村に引き寄せられるきっかけになった。東京時代に出会い、学生結婚した妻は、高知大学で働いていたこともあり、馬路村への赴任に賛成してくれたという。

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