「医」の最前線 高知大医学部「家庭医道場」

〔第2回〕「道場」経験者が村の医師に
回り道した経験、へき地医療の実情
―高知大医学部「家庭医道場」―

 ◇生活全体を診る

 診療所には佐野氏のほかに看護師が2人、理学療法士と事務員が1人ずつ働いている。診療所には診察室が2つ、レントゲン室、胃内視鏡検査室、リハビリ室、週に1度来院する歯科医師のために治療台2台を備えた歯科治療室もある。

馬路診療所の日程表

 佐野氏は1人で馬路診療所と北東部の魚梁瀬(やなせ)にある出張診療所の2か所で外来診察を行うほか、健診やリハビリ、学校医として学校健診、職場での健康相談にも応じる。

 1日30~40人の外来患者を診るほか、必要なら往診や訪問診療にも応じる。患者は60~70歳以降が9割を占める。圧倒的に多いのは生活習慣病だが、心臓病が急変し、心肺停止になった患者を病院に搬送したこともある。救急車では近くの病院まで30分かかるため、村民の病歴管理をしっかり行い、早めに予防策を講じておく必要がある。

 「体が悪くなったとき、自宅で看るか、施設や病院に入るか、延命治療をどこまで希望するのか、ふだんから話しあっておくことが必要。病気をしっかり診るだけでなく、生活全体で診ることが大切」

 ◇医療はごく一部

 村に来て2か月で感じたことは、診断、治療以外の仕事が非常に多いということだという。診察して薬を処方するという一般的な内科の仕事に加え、介護サービスを使って生活の負担を減らす方法を考えたり、家での生活が厳しければ、一緒に施設を探したりする。

 いつ急変してもおかしくない患者がいれば、どこまで積極的な治療をするか、考えを聞いておかなければならない。病院に来られなくなった人がいれば、話を聞きに行くし、往診もする。予防接種、健康教室、学校医、職場健診、経営マネジメント、街づくり…仕事の幅は極めて広い。

「『私はあなたの健康のマネージャーです』という気持ちでやっている」と佐野氏は話す。

馬路診療所で外来診察する佐野医師(右)

 ◇自学自習が基本

 診療所で働く医師は、さまざまな診療科の知識を幅広くもち、常に新しい知識を身につけていかなければならない。遠隔医療システムが整備され、いつでも専門医に相談できる環境が整っている地域もあるが、ごく一部にすぎず、たった一人で責任を負うことへの不安も大きい。

 佐野氏は「自分で論文検索をしたり、情報ネットワークをつくったりして、自学自習ができるようになる必要がある。自分で何もせずに、わからないことを人に聞くのは違うと思う」とアドバイスする。

 「道場で地域医療の勉強をしたから、ぜひ田舎に来てほしいとは思っていない。患者さんに寄り添って感謝されるすてきなやりがいのある仕事だということを伝えたい」

 へき地医療は、奇特な医師が自分の生活を犠牲にして赴任し、一度行ったら戻ってこられない、というイメージを抱きがちだが、決してそうではない。医師としての経験を広げるために、自ら進んで働く場所なのだ。(医療ジャーナリスト・中山あゆみ)

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