「医」の最前線 地域医療連携の今
「全摘」か「温存」だけではない
~「再建する」「しない」を含め最適な治療法の選択を~ 【第6回】がんの医療連携② 九州がんセンター乳腺科部長 徳永えり子医師
日本乳がん学会の調査によると、乳房温存術が乳房全摘術を上回ったのは2003年のことだった。しかし、温存といっても乳房の形が変形したり、思い通りの形にならなかったりして後悔する患者も多く、全摘後に再建手術を行う人が増えてきた。乳房再建は、行うタイミングや使用する素材など、自分に合った時期や方法を選択することが重要となるが、再建術以外の選択肢として代替療法(手段)があることを知らない人も少なくない。
再建するかしないかも時間をかけて検討したい
◇時間をかけて治療法を選択
乳房再建は、乳がんの手術を行った直後に行う「一期的再建術」と手術後一定期間を空けてから行う「二期的再建術」の大きく二つに分けられる。また、実施する時期のほかにも人工のインプラントを使用するのか、あるいは自分自身の組織(自家組織)を用いるのか、そこでもまた選択が迫られる。同時再建というのは、乳がんの手術と同時に再建まで行う手術のことを指し、一期的再建(一次一期)と呼ばれている。
九州がんセンター(福岡市)乳腺科の徳永えり子部長は「一般的には乳がんの手術を行った後に『一次二期』という形でエキスパンダーを挿入して、皮膚を十分に引き伸ばしてからインプラントに入れ替える患者さんの方が多くおられます。ただ、最近はインプラントによる悪性リンパ腫が日本でも報告されるようになってきたため、自家組織を選ぶ方が少しずつ増えているように感じます。また、患者さんによっては肩凝りや冬場の冷えが治らないからと、一度挿入したインプラントを抜きたいと希望されて抜去したこともあります。悪性リンパ腫が怖いから取ってほしいという方もいます」と話す。
乳がん手術の後、どの方法を選択するのか考える時間を与えるためにも「一次二期」や「二次二期」がいいと徳永医師は話す。乳房再建は乳がんの治療として行う手術とは全く異なるため、乳腺外科と形成外科が連携することが多いが、九州がんセンターのように病院内に形成外科がある医療機関であれば、患者が希望すれば全て院内で完結することができる。
左乳房を全摘後(上の写真)、特殊な接着剤で人工乳房を装着(下の写真)すると手術の傷跡は隠れて見えない(川村義肢株式会社「工房アルテ」提供)
◇ 選択肢を与えられていないことも
九州がんセンターでの乳房再建率は高くないという。「患者さんとじっくり話をして再建するか、しないかを決めていきますが、再建率は全摘術を受けた人の1~2割程度です。この時、再建のリスクや再建を行うことによって要する時間や手間などについても伝えています」
病院によっては再建率が8割を超えているところもあるが、徳永医師によると、あり得ない数字だという。乳房全摘術後の選択肢は再建術だけでなく、下着を活用したり、特殊な接着剤を用いて切除した胸に貼るタイプの人工乳房を利用したりする代替手段がある。これらを活用することで十分に対応は可能だと話す。
「他院から来られた患者さんに下着や人工乳房の話をすると、初めて聞いたという人が多数おられます。他の選択肢が与えられていないケースが少なくなく、乳房切除と再建がセットで提案されている病院も多いようです」
乳房再建を希望する場合には、なぜそう思うのか、その理由を確認することが大切だと徳永医師は指摘する。
「温泉に行きたいというのが乳房再建希望の主な理由の人であれば、貼り付けるタイプの人工乳房をお勧めします。再建の傷は見えますが、貼り付ける人工乳房であれば傷は見えません。そんな話をすると、高齢で温泉好きな方は、だいたい人工乳房を選ばれます。子どもさんがまだ小さな方で、お母さんが手術で何日も入院するのが大変な場合には、数回に分けて行うことをお勧めします。まず手術をして短期間で退院して、あとは子どもさんの夏休みなどに合わせるとか、もう少し子どもさんが大きくなってからにするとか、ご家庭の都合に合わせて行っても遅くはありません。これが二次二期再建になります」
患者会などには、言われるままに再建して「こんなはずじゃなかった」という悩み相談も少なくないという。徳永医師は、最初の選択肢を示す時点で再建に関わるリスクを話すべきであると強調する。一方、同性ということもあり「先生だったらどうしますか?」と患者から聞かれることもあるという。
乳がんの治療では、手術の術式を決めたり、術後の再建の有無を検討したり、限られた時間の中でさまざまな選択を余儀なくされることが少なくない。乳房再建をする、しないに関わらず、自分のライフスタイルに合った無理のない方法を選んでほしい。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)
(2022/02/07 07:00)
【関連記事】