「医」の最前線 地域医療連携の今

病院とも連携しながら患者や家族を支える
~最期の日々をより豊かにするために~ 【第23回】訪問診療の医療連携③ にのさかクリニック 二ノ坂保喜理事長

 わが家で最期まで過ごしたい、自宅で家族をみとりたい。こう願う患者や家族は少なくない。しかし、在宅での療養やみとりを希望していても、家族だけでは支えきれないケースは多い。そんな時、患者や家族の支えとなるのが在宅医療だ。「在宅医療は、より豊かな日々を送れるよう、患者さんの命と生活を最期まで支えます」と、にのさかクリニック(福岡市早良区)の二ノ坂保喜理事長は話す。

クリニックを中心にした地域のコミュニティーが患者や家族を支える(にのさかクリニック提供)

クリニックを中心にした地域のコミュニティーが患者や家族を支える(にのさかクリニック提供)

 ◇患者の命と生活を守る

 にのさかクリニックでは開業当時から、「医療が命にどう寄り添うか」「地域社会にどう関わるか」をテーマに掲げてきた。同クリニックは、患者や家族が相談できる窓口を作ったり、患者や家族が安らぐ居場所を提供したり、地域住民を対象に公民館や学校で講演を行ったり、チャリティーコンサートやバザーを開いたり、在宅ホスピスボランティア養成講座を開いたりするなど、地域の中でのつながりを構築してきた。治療法を含めて最期の時をどこで、どのように過ごすのかといった重大な選択をする際、地域の環境が整っていることも重要な要素の一つとなる。

 「患者さんにとって何が必要なのかを考える時、患者さん本人の意思と家族の思い、そして医療的な視点も必要です。それらを合わせて最終的な意思決定や方針の決定を行わなければなりません。この時に、さまざまな立場というものが出てくるわけです」

 患者としては痛みへの不安や家族のこと、家族であれば介護のことや急変時のことなど、それぞれの思いが交錯する。また、治療を行う病院であれば、医療的処置が優先的に考えられてしまうこともあるという。「それらの思いをすり合わせていくのが私たちの役割です」

 病態によっては抗がん剤などの治療をしない方が患者にとっては苦痛が少なく、幸せな場合もあると二ノ坂医師はいう。

 「よく家族の方は『何もしないで穏やかに最期を迎えさせたい』と言われますが、がんの末期の場合、何もしないことで穏やかな最期を迎えられるとは限らないのです。病気の進行に伴って痛みや苦しみが増して、亡くなることになりかねません。痛みや苦しみの緩和は必要になりますし、死に向かって日々を過ごすという、本人と家族の苦悩も増すことでしょう。ここは間違わないようにしなければなりません」

 ◇病院とのさらなる連携強化を

 厳しい選択を迫られることもある終末期だが、在宅医療では治療法の選択や意思決定の支援も行う。しかし、十分な支援ができないこともあるという。にのさかクリックで毎月開かれている「在宅ホスピス事例研究会」で、5月にその一例が紹介された。

 患者は糖尿病を患い、8年前に合併症のため右足を膝下から切断した60代の女性。それ以降も血糖コントロールが不良だったため腎不全となり、1年ほど前から腹膜透析が開始された。もう片方の足も膝下から切断しなければならなくなった。

 彼女はその時、「両方がそろうように切ってね。義足を付けて歩けるようにリハビリ頑張るから」と前向きだった。この間、訪問看護師やケアマネジャーなどの在宅支援チームが患者を支え、また、夫の協力も得ながら自宅で療養生活を送っていた。ところが、胸に水がたまり呼吸苦が見られるようになったことから、病院に入院することになった。

 「患者さんは入院を嫌がっていましたが、元気になってほしいという家族の思いや訪問看護師からのアドバイスもあり、入院を受け入れました」

 患者の在宅での生活支援を担当していたNPO法人「緩和ケア支援センターコミュニティ」の理事長で看護師の平野頼子さんはこのように話し、在宅支援チームでは、患者と家族の意向を尊重し、話し合いを重ねながら8年間にわたって支援を行ってきたという。

 病院での治療で十分な改善には至らず、在宅での生活を続けるためには心臓パイパス手術を勧められた。「手術をするのはつらい、家に帰りたい」と患者は言っていたが、コロナ禍で厳しい面会制限があり、家族も本人とは会うことができず、また、在宅チームのメンバーも面会できなかった。患者は心臓バイパス手術の後、意識が戻らず、1週間後に他界した。

 事例研究会はオンラインで開かれ、全国から在宅医療に関わる関係者など30人以上が参加した。当日司会を務めた二ノ坂医師は、

・なぜ、病院に入院した時点で在宅とのつながりが切れてしまったのか?
・在宅の側から働き掛けることはできなかったのか?
・患者が入院したら、病院側に全てを任せるのか? 在宅チームからの働き掛けがあってもいいのではないか?

といった点を指摘した。

 「病院では患者の暮らしは見えません。これまで在宅と病院との間にはしっかりとした連携がなく、入院したら病院に任せてしまうという状況がありました。しかし、患者さんが病院に入院しても、在宅側が本人や家族、そして病院とも密に連絡を取り合いながら、つながりを続けていくことが大切です」。二ノ坂医師はこう語り、在宅医療機関と病院とのさらなる連携強化を呼び掛けている。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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