「医」の最前線 地域医療連携の今

かかりつけ医との連携で再発を防ぐ
~自分の脈をみる「検脈」の習慣を~ 【第20回】心房細動治療の医療連携④ 福岡山王病院ハートリズムセンター長 熊谷浩一郎医師

 不整脈の中で最も頻度の高い心房細動脳梗塞の原因となることから早期治療が推奨されている。しかし、症状が表れないことも多く、どんな病気なのか知らないという人も少なくない。早期発見にはかかりつけ医の存在が重要となり、主治医と専門病院との連携が欠かせない。また、心房細動についての啓発活動も盛んに行われている。

1年に一度は心電図検査を

 ◇アブレーション後は連携が重要

 カテーテルアブレーションによる治療が終わると、地域のかかりつけ医で経過を診てもらうことになる。

 福岡山王病院(福岡市早良区)ハートリズムセンターの熊谷浩一郎医師は「アブレーション治療を行ったからといって、手術前の生活を繰り返していると、焼灼していないところからまた再発してしまいます」と指摘する。アブレーションをしたらそれで終わりというわけではない。むしろそれからが重要となる。

 「高血圧糖尿病、肥満は心筋に線維化を起こし、脂肪細胞からはサイトカインなどが出てきます。バックグラウンドの生活習慣を改善しなければ、何度治療しても再発を繰り返します。お酒やたばこがやめられないとか、前より体重が増えているといった人たちが再発を起こしてきます」と治療後の生活習慣の大切さを強調する。

 心房細動の治療はかかりつけ医との連携が重要となる。2009年に同病院がオープンしてから5年間の術後経過について、開業医に術後の再発率について調査をしたところ、再発しなかった割合は80%。この中にはアブレーションを2回行ったケースのほか持続性や長期持続性も含まれているため、発作性だけに限定すると、さらに成功率は高くなると熊谷医師は指摘する。

心房細動は症状が表れないことも多い。早期発見には検脈のほかアップルウオッチなどの活用がお勧め(熊谷浩一郎医師提供)

 ◇3月9日を「脈の日」に

 21年2月5日、日本医師会と日本循環器連合は「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下の心血管病診療に関する緊急声明」を発表した。

 「コロナ感染者の増加によって、一時、循環器のベッドがコロナ患者の診療に割り振られ、救急対応できずに心筋梗塞の受け入れができない施設が出たことなどが背景にあります。一方で、コロナ禍で受診を控える人が増え、心疾患の患者が重症化するケースが増加しました」と熊谷医師。

 同病院でも、中等症のコロナ患者を受け入れ、一部をコロナ専用病床として稼働していた時期がある。「せっかく初期だったのに、治療ができずに重症化してしまったという患者さんも少なくなかったと思います」

 日本脳卒中協会と日本不整脈心電学会は、心房細動という病気を知ってもらうため、「脈の日」を作り、3月9日からの1週間を心房細動週間として啓発活動を行っている。年に最低一度はかかりつけ医での心電図検査や職場などでの定期検診を受け、自分の脈をみる「検脈(けんみゃく)」が重要だと熊谷医師は話す。

 「自分で脈を取るのは難しいという人はアップルウオッチなどを活用するのもいいでしょう。アップルウオッチは『心房細動を示唆する不規則な心拍が見られます』というコメントも出るのでお勧めです。重要なことは、心房細動が見つかったら早めに治療を受けることで、カテーテルアブレーションは1年以内が理想的です」

 持続性や長期持続性の患者で、いつから心房細動が起きていたのか分からないといった場合に目安となるのが左心房の大きさだという。

 「通常、左心房の大きさは4センチ以下ですが、発作性から持続性へと進行するに従い拡大していきます。アブレーションで良好な治療結果が得られるのは左心房の大きさが5センチまでです。左心房が5センチを超えている場合は、かなり持続していると考えられるため成功率も低下します」

 心房細動に限らず、どんな病気も早期発見、早期治療が何より重要。コロナ禍ではリモートが増え、運動不足や生活習慣が乱れたという人も少なくないだろう。心房細動という病気を正しく知って、異常があれば早めに病院を受診してほしい。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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