こちら診察室 「無塩無糖」の世界

「無塩無糖」への道
~高血圧・糖尿病のない世界~ 第1回

 世界には調味料や加工食品を取らない食事「無塩無糖」の民族が存在します。アマゾン奥地のヤノマミ族、アフリカのマウイ族、北極のイヌイット族などは食塩や砂糖を取らないため高血圧糖尿病になりません。血圧は年をとっても最高100、最低60くらいです。

高血圧症と糖尿病がないのが人間本来の世界

高血圧症と糖尿病がないのが人間本来の世界

 地球上の哺乳類の中で食塩や砂糖を取るのは人間のみです。人間はいつからか食塩や砂糖を取るようになり、それまで患ったことのなかった病気(高血圧糖尿病)を患うようになりました。

 夫婦で食塩・砂糖の入っている調味料や加工食品を使わない「無塩無糖」の食生活を送っています。24年前に「減塩」からスタートしたのですが、次第に「無塩」になり、さらに当時は想像すらしていなかった「無塩無糖」になりました。いつの間にか自然にたどり着き、現在体験している「無塩無糖」の世界は、高血圧糖尿病のない人間本来の世界でした。皆さまに高血圧糖尿病のない人間本来の「無塩無糖」の世界をお伝えしたいと思います。

 ◇50歳までの食事

 私が50歳までのわが家の食事は、健康のために食事が偏らないように心掛けており、肉も魚も野菜もバランス良く食べるというものでした。しかし、塩分については特に関心がなく、「減塩」していたわけではなく、好んで塩辛い料理を食べていたわけでもありません。おそらく日本の平均的塩加減の食事だったと思います。家族で時々、外食を楽しみました。ラーメンはこってりコクのあるおいしい汁を飲んでいました。塩味を感じませんでした。天ぷらも、すしも、和食や洋食のフルコースも大変おいしく、塩味を感じたことはありませんでした。パンもそうです。パン屋さんの前を通ると、芳しい匂いが店内に導いてくれました。お店のパンがおいしく、塩味を感じませんでした。

 ◇単身赴任がきっかけに

 51歳で単身赴任し、お店の弁当と外食の毎日でした。腹に脂肪が付いてズボンがきつくなり、血圧も次第に高くなって最高130、最低85になりました。

 それまでは一度も自炊をしたことはありません。半年ほどたったある日、宿舎には調味料はなかったのですが、腹がすいたので、フライパンで野菜(もやし、キャベツ)をそのまま炒めて食べました。初めて食べた調味料なしの野菜が意外にもおいしかったのです。体がスーと落ち着いた感じがしたのです。これがきっかけとなり、夫婦で調味料をなるべく使わずに調理する「減塩」を始めました。

無塩無糖パンのポイントは材料にある

無塩無糖パンのポイントは材料にある

 ◇「減塩」から「無塩」へ

 「減塩」を始めたのに「無塩」になったのは、今思えば不思議です。

 「減塩」開始からしばらくすると、食べている料理の中で一番塩辛い料理が苦手になり、やめました。塩辛い料理を避けるようになり、いつの間にか薄味の料理だけになりました。「減塩」を続けていたところ、次第に舌が薄味に慣れて、調味料を使わなくても食材の味がよく分かる味覚になり、満足するようになったのです。このような経過をたどり、ついに塩やしょうゆ、みそ、ソースなどの調味料を全く使わない「無塩」の食事に行き着きました。

 外食が困りました。塩辛くて食べることができなくなったからです。外食で最後まで食べていたのはすしでした。しかし、すしもシャリの塩味を感じて胃にもたれるようになりました。とうとう外食で食べる料理がなくなったのです。

 「無塩」を続けていると、舌がわずかな味も鋭敏に感じるようになりました。驚いたことに塩だけでなく砂糖も舌にいつまでも残り、きつくなりました。そのため砂糖も調理に使わない「無塩無糖」になりました。「減塩」で始めた食事ですが、「無塩」になり、さらに「無塩無糖」になるとは想像もできないことでした。

塩と砂糖を使わなくてもパンはできる

塩と砂糖を使わなくてもパンはできる

 ◇「中尾パン」がお勧め

 もし私に高血圧糖尿病があり、病気を治そうと「減塩減糖」を始めたとしたら、高血圧糖尿病が改善した時点でそれ以上の「減塩減糖」はしないと思います。逆に「減塩減糖」をしても病気が改善しない場合は、諦めて「減塩減糖」をやめると思います。

 「減塩」を始めた時は「無塩無糖」の世界のことは知りませんでした。「無塩無糖」を目標とし意識して取り組んだわけではないのに、「減塩」から「無塩」、さらに未知の世界「無塩無糖」に入りこんだのは体が自然と求めていた結果かもしれません。「無塩無糖」は体に優しい世界です。

 高血圧糖尿病の患者さんには主食としてはパンよりご飯を勧めています。その理由は、パンには体の負担になる食塩と砂糖が入っているからです。「パンが大好きでどうしてもパンを食べたい」と言われる患者さんには無塩無糖パン(中尾パン)を勧めています。お店には無塩無糖パンが売っていないので自宅(ホームベーカリー)でパンを焼くことを勧めています。無塩無糖パンは塩と砂糖を使わないため、小麦粉の味がしてうまいのです。塩や砂糖、マーガリンの代わりに卵、ヨーグルト、牛乳を使うので栄養学的にも体に良いです。ナッツや干しぶどうを入れたり、ニンジンや豆腐を入れたりしています。各家庭で独自の無塩無糖パンをお楽しみください。(了)


 中尾正一郎(なかお・しょういちろう) 日本循環器学会専門医・日本内科学会認定内科医。1973年、鹿児島大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部(循環器内科)、米マウント・サイナイ大学医学部(臨床遺伝学)留学を経て、95年、新しい疾患「心ファブリー病」を医学雑誌「NEJM」で日本から世界に発信。99年、鹿児島県立鹿屋医療センター院長に就任し、日本初の2カ所主治医制による地域医療「鹿屋方式」を構築。NHK「クローズアップ現代」で紹介された。「高血圧専門外来」で対症療法(高血圧薬内服)をやめ、原因療法(減塩・無塩)を勧めている。

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