こちら診察室 リウマチ治療の最前線

なぜリウマチは女性に多いのか 【第5回】

 リウマチは主に女性に多く発症する自己免疫疾患です。男女比は1:4。特に30〜50代の女性に多く見られ、性別による発症リスクに大きな違いがあることが知られています。

 しかし、なぜリウマチが女性に多く見られるのでしょうか。その原因を解明することで、予防や治療法のヒントが見えてくるかもしれません。

 今回のコラムでは、リウマチが女性に多い理由やその背景について、ホルモンの影響や妊娠・出産との関連を含めて詳しく解説します。

女性ホルモンが大きく変動する時期はリウマチの発症リスクが高まる(イメージ画像)

女性ホルモンが大きく変動する時期はリウマチの発症リスクが高まる(イメージ画像)

 ◇女性ホルモンが関係

 リウマチが女性に多く発症する理由の一つに、女性ホルモンが関与しているためだと考えられています。

 エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンは、免疫系の細胞であるT細胞やB細胞の働きを調節する働きがあります。これらのホルモンのバランスが崩れると、免疫系が自己の組織を攻撃し、リウマチを引き起こす可能性が高まります。

 特に月経周期や妊娠・出産など、女性ホルモンが大きく変動する時期はリウマチの発症リスクが高まることが知られています。

 ◇月経により分泌量が増えるエストロゲン

 月経がある30〜50代の女性はエストロゲンのレベルが高く、その変動が免疫系に影響を及ぼしやすい傾向にあります。一方、閉経後はエストロゲンが減少し、リウマチの発症リスクも低下する傾向にあるため、30〜50代の女性にリウマチが多く見られるというわけです。

 ◇妊娠・出産の機能も自己免疫反応と関係

 妊娠中は、胎児を異物として認識しないように免疫系が抑制される状態(免疫寛容)になります。この免疫寛容が、リウマチの症状を一時的に改善させる一因と考えられています。

 しかし、出産後は急速にホルモンバランスが変化し、免疫系が再び活性化するため、リウマチの症状が再発するケースが多いです。また、妊娠中に分泌されるプロラクチンというホルモンは、免疫系に影響を与え、リウマチの炎症を悪化させる可能性もあります。

 ◇リウマチでも妊娠・出産は可能

 関節リウマチは遺伝病ではありません。病気がお子さんに遺伝してしまうのではないか、と心配されるが方もいますが、リウマチを抱える方でも妊娠・出産は可能です。

 ただし、計画的な準備が必要です。妊娠中のリウマチの症状は一時的に改善することが多いものの、出産後に再発するリスクも高いため、医師の指導の下で治療とケアを継続することが大切です。

 妊娠中や授乳中に使用できる治療薬の選定や、出産後のリウマチ管理についても事前に計画を立てておくとよいでしょう。

 医師のアドバイスをもとに適切な治療とケアを続けることで、妊娠中や出産後のリウマチ症状を管理しやすくなります。夫婦でリウマチに対する理解を深め、協力しながら健康な妊娠・出産を目指しましょう。

妊娠後期には60%の女性のリウマチ症状が緩和された(イメージ画像)

妊娠後期には60%の女性のリウマチ症状が緩和された(イメージ画像)

 ◇妊娠中は症状が改善

 妊娠中、関節リウマチの症状が改善されることが知られています。特に、妊娠の3カ月目からは約50%の女性が症状の改善を実感し、妊娠後期には60%の女性が症状が緩和されると報告されています。

 これは、先ほど説明した通り、妊娠中に分泌される特定のホルモンが関節リウマチの炎症を抑制する効果を持っているためと考えられています。また、妊娠中の体内環境の変化も関与しており、これにより関節の痛みや腫れが軽減されるケースが多いです。しかし、妊娠中に症状が改善されたからといって、治療を中断するのは避けるべきです。

 ◇半年以内に90%が再発

 出産後、多くの女性が関節リウマチの症状の再発を経験しています。具体的には、出産後6カ月以内に約90%の女性が症状の再発を報告しています。

 これは、妊娠中に抑制されていたホルモンの影響が出産後に減少し、再び免疫システムが過剰反応するためと考えられます。

 特に、出産直後はホルモンバランスが急激に変化するため、症状が悪化しやすい時期です。プロラクチンという授乳時に分泌されるホルモンも、関節リウマチの炎症を促進することがあります。出産後は症状の再発を予防するため、医師の指導の下で治療計画を見直し、適切なケアを受けることが重要です。

 また、出産後は育児などの負担も増えるため、家族やパートナーのサポートを得て、ストレスを軽減することも大切です。定期的な受診と適切な治療を続けることで症状をコントロールし、再発を最小限に抑えることができます。

 ◇症状と向き合いコントロール

 リウマチが女性に多い理由は、女性ホルモンの変動や妊娠・出産など、女性特有の生理現象が複雑に絡み合っているため、まだ完全に解明されていません。しかし、これらの要因を理解することで、リウマチの予防や治療に役立つ可能性があります。

 残念ながら完治は難しい病気ですが、適切な治療と自己管理によって症状をコントロールし、日常生活の質を大きく改善することができます。薬物療法やリハビリテーション、栄養管理など、さまざまな治療法があり、医師と相談しながら自分に合った治療法を選ぶことが大切です。

 また、ストレスを軽減し、規則正しい生活を送ることも症状のコントロールに役立ちます。リウマチとうまく付き合うためには、医師や医療スタッフ、家族のサポートを受けながら、積極的に治療に取り組んでいきましょう。(了)

湯川宗之助医師

湯川宗之助医師

 湯川宗之助(ゆかわ・そうのすけ) 1975年生まれ、東京都出身。2000年東京医科大学医学部医学科卒業後、同大学病院第三内科、産業医科大学医学部第一内科学講座を経て、15年に湯川リウマチ内科クリニックを開院。16年一般社団法人リウマチ医療・地域ネットワーク協会を設立。リウマチの正しい理解を促す啓蒙活動を精力的に行う。関節リウマチの啓発活動、継続的なその取り組みが評価され、さまざまなメディアでも紹介。20年にはKADOKAWA出版より書籍を発刊。


 


【関連記事】


こちら診察室 リウマチ治療の最前線