こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第3回 乳がんの5~10%は遺伝性
再発予防の乳房切除、4月から保険適用 東京慈恵会医科大の現場から

  ◇若いうちから注意が必要

 BRCA遺伝子に病的バリアントがあると、がんを発症する年齢も、より若くなる傾向が出てきます。

 乳がん全体を見たとき、発症率は40~65歳がピークになります。ところが、日本乳癌(がん)学会研究班の報告によると、BRCA遺伝子の病的バリアントがある人は20歳代から乳がんの発症を認め、30~50歳に発症のピークが来るといいます。

  では、遺伝性乳がんは治療後の局所再発リスクも高いのでしょうか。乳房を残すように腫瘍部分だけを切除する手術(乳房温存手術)を受けた患者の術後を見守る研究を集めて統計的に解析すると、BRCA遺伝子に病的バリアントのある人は再度同じ側の乳房に乳がんができる確率が17%で、ない人の11%に比べて高くなるとの報告があります。

 統計学上、明確な差(有意な差)とはいえませんが、乳房温存を強く希望しない遺伝性乳がん患者に対しては、乳房全体を摘出する手術を行うよう推奨されています。

 一方、もう片方の乳房にも乳がんができる確率は、BRCA遺伝子に病的バリアントのある人は24%で、ない人の7%と比べて明確に高くなると報告されています。また、発症予防のための「リスク低減乳房切除手術(RRM)」を行うと、乳がん死亡率を48~63%減少させる効果があるため、このRRMを受けることが強く勧められています。

 ◇リスク分かれば発症前に両乳房切除も

 乳がんを全く発症していない段階で、両方の乳房を予防的に切除する「両側RRM」に関しても、本人の意思に基づいて実施することはあります。明確ではないものの生存率の改善傾向が示されている▽発症リスクの低減は明らかである▽発症に関する当人の不安が軽減されることもある―などが理由です。

 発症リスクは、手術をしない場合よりも90%低下するといわれています。さらに同様に卵巣や卵管を切除する手術を受けたことにより、軽減される乳がんのリスクは50%といわれます。

 RRMは、これまで保険診療の対象にならない自費診療でした。しかし今年4月から、HBOCで乳がん卵巣がん、卵管がんになった患者が新たな発症を防ぐためにRRMを受ける場合は、保険が使えるようになります。

 ただし、遺伝性乳がんかどうかを調べる検査や遺伝の専門家によるカウンセリングは、まだ全ての医療機関で行えるわけではありません。RRMを実施できる施設も限られています。全く発症していない段階でのRRMは、引き続き自費診療となります。(東京慈恵会医科大学附属病院乳腺・甲状腺・内分泌外科 野木裕子)

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