こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情
第8回 乳がんの再発・転移防ぐ薬物療法
手術の前後、患者に応じた薬を選んで 東京慈恵会医科大の現場から
これから乳がんの薬物療法について、標準治療を中心に説明します。あらかじめ知っていただきたいのは、医療の世界で「標準治療」とは「世界で有効性が認められている最善の治療法」の意味だということ。うな重で例えるなら「特上」だと思ってください。
乳がんでは、手術の前後に再発や転移の予防を主な目的として、必要に応じ薬物療法を行います。
手術前に抗がん剤を使う治療は「術前化学療法」と呼ばれます。
具体的には「腫瘍が大きい」「リンパ節転移がある」「がんが増殖しやすい(指標の『Ki67』タンパクの数値が高い)」「増殖のスピードが速い(指標の『HER2』タンパクが陽性)」といった再発リスクに応じて、行うかどうかを判断します。
抗がん剤を使えばがんが縮小し、手術で切除する範囲を小さくすることが可能になります。
手術後の抗がん剤治療は「術後化学療法」と呼ばれます。
手術の対象となる乳がんの場合、腫瘍のある場所(乳房やリンパ節)を手術で切除することで、完全に治る(治癒する)可能性が高いと考えられています。しかし、検査では分からない小さながんの転移が体のどこかに潜んでいて、時間がたってから出現する患者が一定程度存在します。
手術後に抗がん剤を使うことにより、そうした微小転移をできる限り消し、治癒の可能性を高めることができます。
◇さまざまなタイプがある抗がん剤
抗がん剤には、作用の仕方によってさまざまなタイプがあります。代表格はアンスラサイクリン系と呼ばれる抗がん剤(ドキソルビシン、エピルビシン)で、ほかの抗がん剤と組み合わせて使う「AC療法」「EC療法」「FEC療法」などが推奨されています。
抗がん剤の副作用は、吐き気やおう吐、白血球・赤血球・血小板の減少(骨髄抑制)、脱毛などさまざまです。その出方には個人差があり、実際に薬を投与してみないと分かりません。
近年は、白血球減少による免疫力低下を防ぐため、G―CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤のペグフィルグラスチムという薬が普及し、感染症の心配を軽減しながら抗がん剤治療ができるようになりました。
また、向精神薬のオランザピンが抗がん剤による吐き気を抑えることも分かり、従来の吐き気止めの薬(アプレピタントなど)が効かない場合に使用が可能になりました。
- 1
- 2
(2020/05/04 07:00)
こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情
-
2020/08/28 07:00
【特別編】乳がん患者、将来の妊娠の可能性は
「生殖補助医療」始める選択も乳がん患者は若い世代も多く、将来の妊娠・出産を希望する人は珍しくない。がん治療は不妊につながるリ…
-
2020/06/08 07:00
最終回 着実に進歩する乳がん治療
ゲノム時代、個人に最適の薬探しも目標に「よくわかる乳がん最新事情」の連載は今回が最終回です。最後に、近年の治療成績の向上とともに診断と治…
-
2020/06/01 07:00
第12回 どう向き合うか、乳がんの闘病生活
家族、仕事、お金の問題と対策乳がんと診断され、治療が行われる過程では、病気のこと以外にも多くの問題が生じてきます。人間は一人で…