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治療しづらい爪白癬
~服薬で肝機能に悪影響も~ 【第2回】

 白癬(はくせん)菌による皮膚感染症の中で、主に足の爪と爪の裏側と接する皮膚に、カビ(真菌)の一種である白癬菌が繁殖するのが「爪白癬」です。どこかにある足白癬(足にできる水虫)から白癬菌が広がってきて起きるので、爪白癬と足白癬を並行して治療する必要があります。現在の日本では足白癬が5人に1人、爪白癬は10人に1人が罹患(りかん)していると言われており、決して少数派ではありません。ただ、通常の足白癬より薬が届きにくい場所なので治療期間が長くなることを覚悟してください。

親指などの爪が変色・変形しているのが爪白癬

 ◇放置なら変色、変形、痛み

 爪白癬は爪水虫とも言われます。ほとんどの足白癬と同様に、かゆみなどの身体症状はありません。初期には、爪が白濁して見えたり、爪自体が変色してしまったりします。治療に訪れる人の多くは、ミュールや足指のネイルアートを楽しむ女性で、見た目への影響を気にするケースが多くなっています。

 爪水虫は放置していると爪の変形や腫れて厚くなる肥厚を招き、痛みなどにより歩行に支障が生じたり、踏ん張りが利かなくなったりすることもあります。特に糖尿病など、免疫が低下する疾患の患者さんは爪の変形部から潰瘍が生じ、感染症を引き起こす危険性もあります。「たかが水虫」とは考えないでほしい疾患です。

 ◇塗り薬と飲み薬で

 具体的な治療としては、塗り薬(外用薬)と飲み薬(内服薬)があります。塗り薬の抗真菌薬は爪の表面に薬を塗り、爪を透過させて感染した部分に届かせる治療です。かぶれ以外に大きな副作用はほとんどないですが、治療期間が1年以上かかる場合もあり、治療の継続率は低水準です。どうしても内服ができない、または希望しない患者さん以外は飲み薬の抗真菌薬を使うことになります。

 この内服薬は現在3種類あり、服用パターンによって異なります。最初に登場した薬は1日1錠を約6カ月間服用します。2番目に登場した薬は1日8個のカプセルの服用を1週間続け、その後3週間中断。このパターンを3回繰り返します。最新の薬は1日1錠の服用を12週間続けます。他にも医療用をうたったジェルなどがインターネットなどで取り上げられていますが、効果のほどは確かではありませんので信用しない方がいいでしょう。

 ◇副作用防止へ血液検査

 ただ、内服の抗真菌薬は肝機能に悪影響を与えてしまうという副作用があります。このため、どの薬を使うにしろ、服薬前と毎月1回程度は血液検査をして、肝機能の良しあしを確認する必要があります。もしASTやALTの数値が悪化し、肝機能の低下が認められれば治療を中断する必要があります。

 大きな病院なら検査当日に結果が出ます。小さなクリニックなどでは外部の検査機関に委託している場合が多く、採血から検査結果が出るまで2日ほどかかるため、検査の数日後にもう一度受診しなければならない場合があります。確率はとても低いのですが、肝機能障害を起こしてしまうこともあるので血液検査を欠かさずに受けてください。

 服薬が終わっても通院は終わりません。白癬菌の繁殖は薬で止まりましたが、爪の変色などは残ったままです。爪が少しずつ伸びて生え替わり、変形や変色した部分がなくなるまで再発の警戒も兼ねて定期的な通院が必要です。その期間は半年~1年と言われています。病状を確認しやすいよう、治療期間は足爪のネイルを控えます。

 ◇歩行・運動に支障も

 これまでの話から、おしゃれを楽しむ若い人に不都合な病気と捉えられているかもしれませんが、そうではありません。例えばアスリート。爪白癬ができると、指先に力が均等に入りにくくなり、ジャンプ前の踏み切りや踏ん張りの際などに微妙なバランスを保てなくなる事態が起きます。このため、陸上競技から格闘技までさまざまな競技の選手の成績に影響してしまう可能性が指摘されています。

 このような人たちは、シャワールームで足拭きを共用するなど白癬菌に感染しやすい環境にあります。足を締め付ける靴を長時間履き続けていることも少なくありません。運動選手としてフットケアは欠かせないでしょうから、爪白癬の有無の確認もその中に加えておいてほしいものです。

 高齢者にとっても見過ごせなくなる可能性があります。爪白癬が爪の変形や巻き爪を誘発すると、歩く際に痛みを感じます。そうなると、外出しなくなったり座りっ放しになったりし、運動機能が低下するロコモティブシンドロームの引き金になってしまうかもしれません。肝機能に問題がある患者さんも多いので慎重さは必要ですが、積極的な治療が求められています。(了)

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木村有太子(きむら・うたこ)
 医学博士、順天堂大学医学部皮膚科学講座講師(非常勤)。
 2003年獨協医科大卒。同年順天堂大医学部附属順天堂医院内科臨床研修医、07年同大浦安病院皮膚科助手、13年同准教授、16年独ミュンスター大病院皮膚科留学。21年より現職。
 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本美容皮膚科学会理事、日本医真菌学会評議員、日本レーザー医学会評議員。

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