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老眼(老視)って、ホントの意味で知っていますか? 【第4回】

 最後まで充実した人生を送りたいー。そのために何が必要でしょうか。40、50代の方々(筆者も含みます)は加齢の変化に向き合う必要が出てきます。

 加齢を感じるきっかけにはさまざまな調査がありますが、50代では手元の見えにくさで老いを意識することが多いようです。手元が見にくくなるのは、いわゆる老眼、すなわち老視から生じます。

 しかし、皆さんはいつ自分に老視が訪れるか分かりますか? これには非常に個人差があり、大変難しいです。実は一般的な分かりやすい老視の定義というものは、まだ定まっていません。

 ◇ピント調節能力の低下

 人にはそれぞれ目のピントの合う距離のスタート地点が存在します。それが遠いところにある方は遠視、近いところにある方は近視、ちょうど真ん中(5mぐらい)の方は正視と言います。

 ピント調節をつかさどる毛様体筋の仕事は、ピントを近くに寄せることです。そのため、遠視の方は近視の方より手元を見る際にピントを寄せる量が多いです。また、近視の方も遠くがよく見える眼鏡等を使った状態で、手元を見ようとすると同じようなことが生じます。ピントのスタート地点を眼鏡等で遠くに移すと、やはり手元が見えにくくなるのです。

 しかし、意外なほど多くの方が自分のピントのスタート地点を知りません。さらにややこしいことに、性格的な傾向としてピントが合っておらず、ぼやけていても平気な方と、ピントがシャープに合わないと見えないと感じる方もいます。これらの違いを踏まえた上で、「万人に分かりやすい老眼の定義」を決めるのが大変難しいです。医学的にはシンプルにピント調節能力の低下ということになるのですが…。

老視はすべての人に訪れる(イメージ)

 ◇老視の原因は?

 老視はすべての人に訪れます。老視の原因にはピント調節をするレンズ(水晶体)が固くなるという説と、ピント調節能力をつかさどる機能が低下するという説とがあり、長らく議論されてきました。

 ピント調節能力のみが問題であれば、目の筋トレのようなものも効きそうですが、残念ながら何をしていても老視は必ず進行します。最新の研究によって、老視の原因は水晶体の硬化が原因と結論付けられました。逆に、現在この硬化を抑えることで老視へのアプローチができないか、研究されているようです。

 ◇大きな負担

 老視は避けられず、ピントを変える道具が必要であるという事実に対して、人々の理解は遠いです。手元の見え方に困難を感じているにもかかわらず放置している、あるいは誤った対応をしている方が多いです。

 報告によると、先進国の人々の3分の1が適切な老眼鏡を持っていません。そのため、字を読むなどの近くを見る作業に困難が生じ、結果的に老視による世界全体への社会的負担は25億ドル(約3500億円)に至るとされています。手元が見えないだけで仕事にならないということです。また、老視の負担は仕事においてのみではなく、自覚的幸福度や睡眠の質にまで影響するとの結果が出ています。

遠近両用眼鏡は度数やレンズの中心の決定に高い精度が必要(イメージ)

 対策①=眼鏡

 では、老視の対策をどうするか。まずは、いわゆる老眼鏡の出番です。老眼鏡の使い方にはいろいろあり、近くを見るときだけ使う、近くに関しても見る距離に分けて使い分ける、あるいは遠くも近くも1本で行ける遠近両用を使うなどTPOや生活習慣、個々人の目の状態によって変わります。

 また、遠近両用眼鏡には目線の動かし方にコツがあり、練習が必要です。さらに普通の眼鏡に比べて度数やレンズの中心(アイポイント)の決定やフィッティング調整に高い精度が必要です。老眼鏡は簡単に作れると思わず、眼科で眼鏡の処方箋をもらい、良い眼鏡店を選びましょう。

 対策②=サプリメント

 小規模な対象での研究ですが、サプリメントによる老視対策の研究データがあります。老視のある世代に対してアスタキサンチンという成分を服用すると、調節に関わる筋肉(瞳孔括約筋、瞳孔散大筋)の状態が良くなり、自覚症状が改善したというものです。残念ながら明確に裸眼視力が改善した結果は出ませんでしたが、他にも複数の報告にて自覚症状の改善が認められたとされています。

 アスタキサンチンは赤色のカロテノイドの一種であり、強い抗酸化作用を持つと言われています。アスタキサンチンは動脈硬化の予防や運動の改善、脳機能の改善等において盛んに研究されている成分です。目だけでなく、フレイルやサルコペニア(加齢に伴う筋機能低下)への効果があるとされ、筆者も注目しています。

 なお、アスタキサンチンの使用にはコツがあります。毎日飲み続けて1カ月を超える頃に効いてくるため、飲むと決めたらしっかり飲み続けましょう。

 ◇パフォーマンス、下げない努力を 

 連載は、ここまで緑内障、白内障と病気の話をしてきましたが、目標は最後まで元気に生きるための知識をお伝えすることです。老いを遠ざけるためには、これまで続けてきたことを「年のせいだから」と言ってやめないことが大切です。

 老視は何も手を打たなければどうしても困難が生じます。パフォーマンスを下げない努力が必要です。そのためには老視を知り、自らのピントの位置を知り、適切な道具を持って、老いと戦いましょう。老眼鏡を使うことは恥でも何でもありません。若々しく生きるために必要な道具なのです。(了)

岩見久司医師

 岩見久司(いわみ・ひさし) 大阪市大医学部卒、眼科専門医・レーザー専門医。 大阪市大眼科医局入局後、広く深くをモットーに多方面に渡る研さんを積む。ドイツ・リューベック大学付属医用光学研究所への留学や兵庫医大眼科医局を経て、18年にいわみ眼科を開院。老子の長生久視(長生きして、久しく目が見えている状態)が来る時代を願い、22年に医療法人社団久視会に組織を変更した。現在は多忙な診療を行う傍ら、兵庫医大病院で非常勤講師として学生や若手医師に対して教鞭をとる。

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