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ひっそりと忍び寄る緑内障
~減った神経は元に戻らない―睡眠時無呼吸症候群との関連も~ 【第2回】

 ◇古くから知られている緑内障

 緑内障について、最古の記述は古代ギリシャにさかのぼります。古代ギリシャ語で瞳が緑色(ないし青色)に光るという記載があり、それから緑内障の名前が付いたようです。現代の医学に照らし合わせると、いわゆる緑内障発作の所見と一致すると考えられています。

 日本では、江戸時代には緑内障が青底翳(あおそこひ)と呼ばれており、同じような認識でした。ちなみに、底翳とは眼球内部に悪いものが潜んでいるという考え方から来る名前であり、白内障は白底翳と呼ばれていました。いずれも瞳(瞳孔)の色の変化からの名前です。

緑内障の症状

緑内障の症状

 ◇眼圧が高いわけではない

 緑内障は目の神経がやせることで視野が徐々に欠けていく病気で、眼圧を下げる治療が行われます。眼圧を下げる治療をするからといって、必ずしも眼圧が高いわけではありません。

 多治見スタディという日本の緑内障疫学研究(病気がどのような割合で生じるかの研究)では、眼圧が正常範囲の緑内障が約9割という結果でした。一方、白人では正常眼圧緑内障が約3割程度しかいないとされ、きちんと論文や教科書を読み込まないと眼科医でさえ誤解している現状があります。

 減った神経は元には戻らず、治療をしっかり続けることで進むのを止めることが目標になります。

 ◇最近はレーザー治療が注目

 眼圧を下げる治療としては点眼、レーザー、手術があります。点眼は毎日続ける必要があり、しっかりと継続することが大切になります。レーザーは最近、脚光を浴びている治療です。現在の日本の緑内障ガイドラインでは、レーザーは点眼の補助治療とされています。

 しかし、今年の4月に日本初の多施設共同研究の結果が出て、緑内障はレーザーから治療を開始しても有効と報告されました。レーザー治療は平均3年ほど効果が持続し、その間は通院は必要ですが、メンテナンスフリーになります。

 毎日きちんと点眼を行うことはなかなか難しく、特に忙しい世代にはお勧めかもしれません。手術も最近は低侵襲緑内障手術(MIGS)という概念が提唱され、目に負担の少ない手術が数多く行われるようになりました。緑内障治療と言えば、点眼しかないという時代は終わりつつあるでしょう。

 ◇意外に多い緑内障

 先ほどの多治見スタディでは、40歳以上の5%、70歳以上の10%に緑内障の方がいるという結果でした。さらにその結果で注目すべきは有診断率が10%だったということです。

 有診断率とは、持っている病気が判明している方の割合です。すなわち、緑内障の方の90%が見つかっていないということになります。その理由は前回のコラムで述べた日本人の健診受診率の低さと、緑内障は末期まで症状の出ず自覚されにくいという性質によることが大きいです。

 緑内障はなぜ早期発見が難しい?

 緑内障はわが国の失明原因のトップとされています。視野が欠けていても自覚はされにくい理由として二つの事柄が挙げられます。

 緑内障の方の見え方について研究した結果では、視野が欠けていることを明確に自覚している人はなんと1/6しかおらず、8割の方は欠けている部分を見えていると答えていました。その報告の考察によると、欠けている部分の情報は脳によって補われているだろうとのことです。

 もう一つは、人間には目が二つあることです。両眼のいずれかの視野が残っていれば生活に不自由はあまりありません。これは緑内障の方は末期まで見え方に困らないという有り難い側面がある半面、早期発見が難しいことにつながります。

 また、日本での報告で、治療開始1年後の通院継続率は61%だったというものがあり、これも自覚症状の無さによるものかもしれません。

 緑内障の人に使えない薬がある?

 緑内障には開放隅角(ぐうかく)緑内障と閉塞隅角緑内障があります。目の中の水(房水)の流れる先である隅角というスペースが広いものと狭いものの違いです。

 閉塞隅角緑内障は、基本的に白内障手術によって隅角の狭さを改善させて治療します。隅角が狭いままだと、抗コリン剤(よく大腸内視鏡検査で使われる)や睡眠薬などの使用で、より隅角が狭くなり眼圧が上がる危険性が生じます。そのため、緑内障の方へのこれらの薬剤の使用は注意が必要です。

 ただ、隅角の狭い状態は眼科医でしか診断できず、かつ隅角が狭ければ眼科医は何らかの治療を行いますので、ほぼ問題なく使用できることが多いです。これらの薬剤を使用することが必要な際は、すぐに眼科医に相談しましょう。

睡眠時無呼吸症候群は緑内障のリスクを10倍程度上昇させると言われている(イメージ図)

睡眠時無呼吸症候群は緑内障のリスクを10倍程度上昇させると言われている(イメージ図)

 ◇病気から出る緑内障も~睡眠時無呼吸症候群

 緑内障は、実は体の病気から来ることもあります。それが睡眠時無呼吸症候群です。睡眠時無呼吸症候群はいびきが途中で止まっていることなどから見つかる病気で、緑内障のリスクを10倍程度上昇させると言われています。

 ある推計では日本人に940万人以上存在するとされており、高血圧脳卒中糖尿病とも強い相関を示します。睡眠時無呼吸症候群は必ずしも肥満がある方だけではなく、顎が小さい、舌が大きい、鼻が詰まっているなども原因になります。いわゆるメタボ健診に引っ掛かる方に睡眠時無呼吸症候群が隠れていることも珍しくありません。その際に緑内障のこともチェックしてみるとよいでしょう。

 緑内障で困らない将来のために

 緑内障は非常にありふれた病気であり、かつ失明につながる重要な病気です。もっと早期発見を促すべく、毎年3月に行われる世界緑内障週間では啓蒙(けいもう)活動の一環としてさまざまな場所がグリーンにライトアップされています。

 先ほど書きましたように、緑内障は末期まで自覚症状がなく、健診で早期に見つける必要があります。自分は大丈夫と思わずに、40歳を過ぎたら眼科健診を意識しましょう。(了)

岩見久司医師

岩見久司医師

 岩見久司(いわみ・ひさし) 大阪市大医学部卒、眼科専門医・レーザー専門医。 大阪市大眼科医局入局後、広く深くをモットーに多方面に渡る研さんを積む。ドイツ・リューベック大学付属医用光学研究所への留学や兵庫医大眼科医局を経て、18年にいわみ眼科を開院。論語の長命久視(長生きして、久しく目が見えている状態)が来る時代を願い、22年に医療法人社団久視会に組織を変更した。現在は多忙な診療を行う傍ら、兵庫医大病院で非常勤講師として学生や若手医師に対して教鞭をとる。

 大学病院などで培った網膜・緑内障診療と、小児の近視治療の2本柱を軸に、高度医療を提供する。「100歳まで見える目」をたくさんの人が持てるように啓蒙活動を展開。

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