こちら診察室 人生が鼻でこんなにも変わる⁉ 鼻にまつわるドクターのハナシ
アレルギー性鼻炎について、専門医に聞いてみた! 【第5回】
春先や秋口になると、くしゃみが止まらず鼻水が止まらない。そんな悩みを抱える方は多く、診察室でも「毎年この時期になると本当にツライんです」という声をよく耳にします。くしゃみや鼻詰まり、透明な鼻水が長く続く場合、それは風邪ではなくアレルギー性鼻炎の可能性が高いでしょう。今回は、専門医の立場からアレルギー性鼻炎について分かりやすく説明していきます。

アレルギー性鼻炎とは体の免疫システムが過剰に反応してしまうことで起こる慢性的な鼻の病気(イメージ画像)
◇アレルギー性鼻炎とはどんな病気?
アレルギー性鼻炎とは、本来は無害なはずの花粉やハウスダスト、ダニ、ペットの毛などに対して、体の免疫システムが過剰に反応してしまうことで起こる慢性的な鼻の病気です。くしゃみが連発する、サラサラとした透明な鼻水が出る、鼻が詰まって息苦しいといった症状が代表的です。
風邪との違いは、発熱を伴わず、症状が数週間から数カ月単位で続くことにあります。患者さんによっては、毎年決まった時期だけ症状が出る場合もあれば、一年中悩まされている方もいます。
◇アレルゲンとは何か、季節との関係
アレルギー性鼻炎の原因となる物質を、医学的には「アレルゲン」と呼びます。最もよく知られているのは、春のスギ花粉です。ほかにも、ヒノキ、イネ科、ブタクサなど、植物によって飛散の時期が異なります。これらによる症状は季節に応じて発症するため「季節性アレルギー性鼻炎」と呼ばれます。一方で、ハウスダストやダニ、ペットの毛などは年間を通じて存在するため、「通年性アレルギー性鼻炎」の原因となります。季節性と通年性、どちらのタイプであるかを見極めることが、治療方針を決める上で非常に重要です。
◇診察と検査で何が分かるのか
診察ではまず、患者さんの訴える症状や生活環境、発症時期などを詳しく伺います。その上で、鼻の中の粘膜の状態をファイバースコープなどで観察します。アレルギー性鼻炎の場合、鼻の粘膜が白っぽく腫れていたり、透明な鼻汁が見られたりすることが多いです。さらに、アレルゲンの特定には血液検査や皮膚テストを行います。血液検査では、スギやダニなど特定のアレルゲンに対するIgE抗体の値を測定します。皮膚テストでは、ごく少量のアレルゲンを皮膚に付けて、その反応を見ることで感受性を調べます。これらの検査によって、どの物質に反応しているのかが明確になり、治療や生活上の対策につなげていくことができます。
◇治療法は薬だけじゃない
アレルギー性鼻炎の治療には、症状を抑える対症療法と、体質を改善していく根本治療の二つがあります。まず多くの方が用いるのが薬による治療です。くしゃみや鼻水を抑えるためには、抗ヒスタミン薬がよく使用されます。最近の薬は眠くなりにくく、日常生活への影響も少なくなってきています。鼻詰まりがひどい場合には、ステロイドの点鼻薬が処方されることがあり、継続して使うことで粘膜の炎症を抑えることができます。また、ロイコトリエン拮抗薬という薬が併用されることもあります。これらはあくまで症状を緩和するためのもので、原因そのものをなくすものではありません。
より根本的な治療としては、アレルゲン免疫療法があります。これは、アレルゲンをごく少量ずつ体内に取り入れ、時間をかけて慣れさせていくことで、アレルギー反応を起こさない体質に導く方法です。舌下免疫療法という方法が代表的で、特にスギ花粉やダニアレルギーに対して保険適用となっており、注目されています。治療には数年単位の時間が必要ですが、効果があれば症状が大幅に軽減されたり、薬の使用を減らせたりする可能性があります。ただし、すべての人に効果があるわけではなく、事前の診断や適応の見極めが必要です。
アレルギー性鼻炎の症状を軽くするには生活環境の見直しも大切(イメージ画像)
◇日常生活で気をつけること
アレルギー性鼻炎の症状を軽くするには、薬や治療と並行して、生活環境の見直しもとても大切です。花粉症の方は、外出時にマスクやメガネを着用することが基本です。花粉が多い日はなるべく外出を控え、帰宅後は服に付いた花粉を玄関で払い、顔や手を洗うことが効果的です。洗濯物はできれば室内干しにし、花粉の付着を防ぎましょう。
通年性のアレルギーが疑われる場合には、小まめな掃除や換気、空気清浄機の導入が有効です。寝具やカーペットなどはダニの温床になりやすいため、専用のカバーを使ったり、定期的に熱処理や洗濯を行うことが推奨されます。ペットが原因の場合には、触れた後の手洗いを徹底し、寝室にはできるだけ入れないようにするなどの工夫も必要です。
◇子どもでもかかる
患者さんからよく寄せられる質問のひとつに、「子どもでもアレルギー性鼻炎になりますか?」というものがあります。答えはもちろんイエスです。最近では、小学生や中学生でも花粉症に悩むお子さんが増えており、集中力の低下や睡眠の質の悪化といった問題にもつながっています。早めに受診し、必要に応じて薬の処方や環境調整を行うことで、学習や日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。
また、「一年中くしゃみが出るのですが、何が原因でしょうか?」という質問も多くいただきますが、これは通年性アレルゲンが原因となっている可能性が高いです。血液検査などで原因を調べ、生活の中で改善できる部分を見つけることが大切です。
「アレルギー性鼻炎は治りますか?」という疑問に対しては、現時点では完治が難しい病気ではあるものの、適切な治療と予防策をとることで、症状を大幅にコントロールすることは可能です。特に免疫療法によって、症状を抑えることができたという報告も多くあります。
◇たかが鼻水、されど鼻水
アレルギー性鼻炎は、命に関わる病気ではありませんが、放置すると生活の質が著しく低下します。眠りが浅くなることで疲れが取れず、集中力が下がり、勉強や仕事の効率にも影響します。また、口呼吸が常態化することでのどの乾燥や風邪の引きやすさにもつながります。「たかが鼻水」と侮らず、気になる症状があれば早めに耳鼻科を受診し、自分に合った対処法を見つけていくことが、快適な毎日への第一歩です。症状と上手に付き合いながら、質の高い生活を取り戻していきましょう。私たち医師は、そのお手伝いができることを誇りに思っています。(了)
荒木進医師
荒木進(あらき・すすむ) 東京医科大学医学部を卒業後、同大学耳鼻咽喉科学教室に入局。オーストラリア・メルボルン大学での難聴の基礎研究、東京警察病院医員、厚生中央病院医長、東京医科大学霞ヶ浦病院科長、東京医科大学准教授を経て、08年に千葉県流山市で流山おおたかの森耳鼻科モーニングクリニックを開院。18年1月、「こころ安らぐ空間」をコンセプトに、人間ドックと日帰り手術専門を行うクリニックとしてモーニングクリニック六本木 内科・耳鼻咽喉科ORを開院。09年1月からは東京医科大学兼任准教授を務める。
(2025/06/04 05:00)
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