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よく寝る子は成績が良いのか? 第3回
受験勉強だけでなく、受験がなくても学校以外の塾やその宿題で短時間の睡眠を強いられている児童・生徒は少なくないでしょう。この図は、2021年度の10歳から14歳まで都道府県別の睡眠時間と、文部科学省が行った全国学力・学習状況調査における中学校3年生の国語と数学、小学校6年生の国語と算数の4教科の試験結果を平均したグラフで、人口密度の高い都会型の都府県を表しています。

こうした都会型の生活スタイルでは、学校が終わってからも塾などで学習する場合が多く、相対的にかなりの子どもたちが長時間の学習を受けていると推定されるからです。さらに、自宅に帰っても学校での宿題や予習復習に加えて、塾での授業の準備や課題にも時間が割かれています。
縦軸が正答率、横軸が睡眠時間で、点線は大まかな傾向を示す近似直線を表し、右上には近似直線の数式と決定係数、有意確率を示しています。この結果を見れば、学習量に比例するのか、東京都など睡眠時間が短い都府県ほど成績が良く、睡眠時間が長くなると成績が悪くなっています。近似直線は睡眠時間と正答率の関係を示しています。近似直線が右肩下がりなっていて、これは睡眠時間が長いほど成績が悪くなる傾向があることを示しています。

◇睡眠時間を犠牲にする必要はない
一方、逆に塾などに通う機会が少ないと考えられる人口密度の低い地方ではどうでしょう。二つめの図は、この条件を満たす道と県の結果を図表化したものです。地方型と都会型を比べると、平均では睡眠時間と正答率は変わりません。つまり地方と都会、どちらが良いということはありません。しかし、地方型では睡眠時間と正答率に有意な関係は見出せないことから、無理やり睡眠時間を短くして勉強する必要はないと言えます。
これらの結果から、「よく寝る子は成績が良いのか」という疑問に関しては、正解ではないようです。むしろ、勉強以外に誘惑の多いはずの都会型では、睡眠時間を削ってでも勉強をしないと成績が上がらない結果となっていました。この点でも、睡眠時間が長いことが良い成績につながるとは限らないことが明らかになってきているような気がします。(了)
遠藤 拓郎(えんどう たくろう)
スリープクリニック調布院長。米スタンフォード大学医学部客員教授。1987年東京慈恵会医科大学卒業。後、米スタンフォード大、スイス・チューリッヒ大、米カルフォルニア大へ留学。帰国後東京慈恵会医科大助手などを経てスリープクリニックを開業し、不眠症治療に携わる。その一方で 慶應義塾大学医学部特任教授を経て2023年より現職。睡眠や不眠症に関する著書多数。近著に「最強の昼寝法 ~日本人の処方箋~」(扶桑社)。YouTubeでも情報発信。
(2025/06/11 05:00)
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