治療と対策 家庭の医学

 覚醒(かくせい)剤有機溶剤麻薬大麻など違法な薬物の場合は、ただちにその摂取をやめることから治療が始まります。また治療薬の依存の場合は、いきなり薬物をやめるのではなく摂取量を徐々に減らします。いずれの場合も通常入院し、24時間の医療監視下で治療を受ける必要があります。
 身体依存のある麻薬や睡眠薬、抗不安薬などの治療薬では、離脱症状への対策が必要です。精神的苦痛、せん妄、けいれんなどが出現することがあるので、その治療や予防をします。覚醒剤や有機溶剤の場合、身体依存はありませんが、薬物を断ち切った場合は渇望が非常に強く出るので、閉鎖的な環境での治療を要することがあります。その間に、長期乱用で障害を受けた肝臓、腎臓など諸臓器への治療をおこない、身体回復後の治療への備えをします。
 幻覚や妄想などの精神病症状が出ている場合は、抗精神病薬を持続的に服用することが必要です。
 以上の医学的治療は、社会復帰の前提で必要条件ですが十分条件ではありません。アルコールのところでふれたように、本人の治療意欲の問題、家庭・職場・地域などの環境をととのえる問題、そしてサポートとして重要な自助組織(自助グループ)へのつながりなどがからんできます。入院中から、個人個人の治療プログラムをつくり退院後につなげていくことが大切です。
 自助組織としてはDARC(ダルク:薬物依存症リハビリテーションセンター)があります。DARCとはDrug(薬物)のD、Addiction(嗜癖・病的依存)のA、Rehabilitation(回復)のR、Center(施設、建物)のCを組み合わせた造語で、回復者が主導する集団生活をしながら回復を目指しています。
 違法な薬物を摂取したときには警察や司法機関がかかわってきます。現在、薬物乱用者へのかかわりはどうしても司法関係が多くなりがちですが、これでは治療を効果的に進めることはできません。システムを変えていくことも必要と思われます。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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