これからの寄生虫病と予防 家庭の医学

 寄生虫病は、熱帯・亜熱帯地域の途上国では日常生活の場でふつうにみられる病気です。回虫(かいちゅう)症や鉤虫(こうちゅう)症は世界で10億~15億人が感染していると見積もられています。そのような状況下、国際交流や海外旅行ブームで多くの人が海外へ出かけ、特に熱帯・亜熱帯地域で日本と同じ生活スタイルで過ごして、風土病に感染して帰国する人が多くみられるようになりました。これらのなかには、日本ではみられないマラリアなど、的確な診断がつかない場合には死につながる寄生虫病もあります。帰国後、発熱、下痢などがあった場合には、海外から帰国したことを必ず医師に話し、熱帯病も考えに入れて診断してもらうことが大切です。
 ペットブームやゲテモノ食いによって、動物の寄生虫が人に感染することが多くみられるようになりました。ペットとの距離が密になるにつれて感染の機会もふえてきています。ペット動物の種類も増加していますが、希少な野生動物の場合、未知の寄生虫を保有していてそれが人に感染することも想定されます。診断法も確立しておらず、治療薬も無論ありません。野生動物をペットとして飼う場合は細心の注意が必要です。
 寄生虫病は食べ物や水とともに、また、手指に付着して口から感染することが多いです。野菜を生で食べるときには、流水でよく洗うこと、海外旅行のときには生水、生の食べ物は食べないことが予防のうえで大切となります。
 動物の寄生虫にはヘビなどいわゆるゲテモノを生で食べたり、ペットなどの動物にさわったりして感染します。ゲテモノは必ず十分に火を通してから食べるようにし、食事の前や動物と遊んだあとには必ず手を洗うことを習慣づけてください。また、熱帯地への旅行では、熱帯病・寄生虫病を媒介する蚊やダニなどの節足動物に刺されないように、長袖・長ズボンや虫よけスプレーの準備も必要です。さらに、その土地で流行している疾病について知識をもち、無理な行動をしないことも寄生虫感染症の予防につながります。
 そのほか、コンタクトレンズの保存液の衛生管理がわるいため、アカントアメーバ症に感染する例も多くみられるようになりました。コンタクトレンズは正しい使いかたをするようにしましょう。
 20世紀終盤から地球の温暖化が問題になっています。日本はしだいに亜熱帯化また熱帯化してきています。デング熱(ウイルス疾患)を媒介するヒトスジシマカの生息域北限が、50年間に北関東から下北半島まで延長しました。熱帯熱マラリアを媒介するコガタハマダラカも、沖縄から生息域を北上させている可能性があります。日本紅斑熱(リッケチア疾患)SFTS(Severe fever with thrombocytopenia syndrome:重症熱性血小板減少症候群)を媒介するマダニの分布もひろがっている模様です。地球の温暖化を身近なものとしてとらえましょう。熱帯・亜熱帯地域で流行している寄生虫病に、どうぞ関心をお寄せください。

(執筆・監修:長野県飯田保健福祉事務所 所長 松岡 裕之)

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