認知症〔にんちしょう〕

  認知症にかかっている人は軽度を含め462万人(2012年)と推測され、生活自立度Ⅱ以上の、生活になんらかの助けを要する認知症数は、介護保険データから305万人(2020年推計410万人)であることが公表されています。
 一生涯で認知症になる確率は50%といわれ、誰しもが認知症になることが考えられます。早くからリスクを減らす健康活動が求められます。

1.認知症の予防
 世界保健機関(WHO)では、予防の要点を、若いときからの教育、中年期の高血圧コントロール、中年期の肥満防止、生涯を通じた糖尿病防止、運動、知的活動としています。特に重要なのは知的活動とからだを定期的に動かすことで、これらを同時におこなうデュアルタスクとしてコグニサイズなどが有効であることがわかってきました。コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した、高齢者のためのエクササイズです。運動と認知課題(計算やしりとりなど)を同時におこない、運動でからだの健康をうながすと同時に脳の活動を活発にする機会をふやして認知症の発症を遅らせることを目的としています。
 アメリカのある地域の病気を長期間観察しているフラミンガム研究によれば、生活習慣の永年の改善によって、同じ年齢で認知症になる確率は大幅に改善してきていることがわかりました。


2.認知症の早期発見
 早期発見には、「同じ話をしたことを指摘される、昨日の夕食の内容が思い出せない、買い物と料理の準備ができなくなってきた」などの日常生活上の変化が手掛かりとなります。
 どこを受診したらよいかは、悩むことでしょう。認知症のおおよその見分けかた講座(かかりつけ医の認知症対応力向上研修)を修了した医師は、すでに7万人を超えています。かかりつけ医をまず受診し、よりくわしい検査が必要なときは全国に約500カ所ある「認知症疾患医療センター」でMRI(磁気共鳴画像法)検査やくわしい心理テストで正確な診断や今後の治療の説明を受けることができます。
 認知症と一口でいってもいろいろなタイプがあり、治療方法も異なります。早期に正確な診断を受けてタイプにあった治療を開始することが大切です。

●早期に現れる症状からみた認知症の特徴
アルツハイマー病
(60%)
記憶の低下:同じ話をくり返す、ものをなくす、
  さがす
脳血管性認知症
(20%)
感情鈍ま:表情が平板、悲哀、とじこもり
うつ
レビー小体型認知症
(5%)
幻覚:幻視、夢見がわるい、薬で錯乱
うつ
前頭側頭型認知症
(2~3%)
意欲の低下:無関心、自発性低下、ものぐさ、
  無気力
常同行動:同じ椅子に座る、同じものを食べる
情動変化:にこにこ、不機嫌


3.認知症の治療
 治療は脳神経の情報を伝える物質(神経伝達物質)のはたらきをよくする、認知症薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類)の使い分けによる薬物療法と、記憶や感情を刺激したり、性格を温和にする非薬物療法があります。薬物療法はおおむね1年程度認知症の進行を遅らせることが可能です。
 2024年から、疾患修飾薬というアミロイドの沈着を改善するレカネマブが保険適用で使用され、今後さらに複数の薬が利用可能になります。適応は認知機能がわずかに低下した初期の状態に限られますが、認知症の進行を鈍化する効果があります。副作用の観察など詳細な経過観察が求められるため、限られた医療機関をまず受診することになります。
 非薬物療法は、介護保険を利用すると、デイケア(通所リハビリテーション)や介護老人保健施設入所で「認知症短期集中リハビリテーション」を受けることができ、症状の緩和に役立つことが知られています(Toba K., et al. : GGI 2013)。

●認知症状リハビリ前後の改善
(ns=変化なし)
対照群認知リハ
中等症状群
軽症含む群
ものをなくすns p=0.003 p=0.003
昼間寝てばかり p=0.029 p=0.048 p=0.0023
介護拒否NA p=0.0058 p=0.0072
何度も同じ話nsns p=0.022
暴言nsns p=0.0097
言いがかりnsns p=0.0006
場違いな服装nsns p=0.0023
ため込みnsnsns
無関心ns p=0.041 p=0.0072
昼夜逆転ns p=0.018 p=0.0593
常同行動 p=0.08nsns
散らかしNAnsns
徘徊(はいかい)ns p=0.05ns


 非薬物療法は家庭でも応用可能です。昔話で元気を取り戻す回想法や散歩や歌を歌う、運動療法や音楽療法は家庭でもできます。

(執筆・監修:地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 理事長/国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐 鳥羽 研二)
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