慢性腎臓病(CKD)は認知機能障害の危険因子として知られているが、どの程度の腎機能低下で影響が及ぶのかは明確でない。中国・The First Affiliated Hospital of Nanjing Medical UniversityのXiaohua Pei氏らは、腎機能と認知機能障害の関連を明らかにする目的でシステマチックレビューおよびメタ解析を実施。観察研究17件・非透析CKD患者3万例超を解析した結果、推算糸球体濾過量(eGFR)が低下するほど認知機能障害リスクは上昇し、特に60mL/分/1.73m²を下回ると有病率が顕著に上昇することが明らかになったとRen Fail2025; 47: 2463565)に報告した(関連記事「認知症予防効果が期待できるスポーツは?」)。

認知機能障害を来すeGFRの境界値を調査

 CKDは進行すると心血管疾患や神経疾患のリスクが高まることが知られており、最近では特に認知機能障害との関連性が注目されている。一般集団に比べてCKD患者は認知機能障害のリスクが高く(Am J Nephrol 2012; 35: 474-482)、腎機能低下に伴い認知機能障害有病率が上昇する(Am J Kidney Dis 2018; 72: 499-508)ことや、CKD患者における認知機能障害は脳血流の低下や尿毒素の蓄積、酸化ストレスなどが関与する可能性(J Stroke Cerebrovasc Dis 2021; 30: 105529)などが報告されている。

 しかし、腎機能がどの程度低下した段階で認知機能への影響が顕著になるかは明らかでない。Pei氏らは今回、それを検証するためのシステマチックレビューとメタ解析を行った。

 同氏らは、2024年11月までにPubMedまたはWeb of Scienceに収載された観察研究で、①非透析CKD患者が対象、②標準的な認知機能テスト(Mini-Mental State Examination、Montreal Cognitive Assessmentなど)を用いて認知機能障害を評価、③eGFRが60mL/分/1.73m²未満の患者における危険因子を調査している―などの条件を満たす論文を検索。最終的に17件・3万2,141例をメタ解析の対象とした。

eGFR 30未満群の認知機能障害有病率は60%超

 解析の結果、腎機能が低下するほど認知機能障害の有病率は高くなることが明らかになった。具体的には、eGFRが60mL/分/1.73m²以上で10.0%、59〜30mL/分/1.73m²で47.3%、30mL/分/1.73m²未満で60.6%だった。

 また、認知機能障害に関連する危険因子について検討したところ、有意な因子として2型糖尿病〔オッズ比(OR)1.55、95%CI 1.33〜1.81〕、心血管疾患(同1.63、1.20〜2.22)、脳血管疾患(同1.95、1.55〜2.45)、低学歴(同2.59、1.32〜5.09)などが特定された。一方、喫煙や高血圧、BMI、血清アルブミン、リン濃度は認知機能障害との有意な関連はなかった。

 以上から、Pei氏らは「腎機能が低下するにつれて認知機能障害リスクは上昇した。特にeGFRが60mL/分/1.73m²を下回ると認知機能障害の有病率が顕著に上昇し、30mL/分/1.73m²未満では60%を超えていた。非透析CKD患者ではeGFRを60mL/分/1.73m²以上に維持することで、認知機能障害の有病率を大幅に抑えられる可能性がある」と総括。また、複数の修正可能な危険因子を早期に発見し適切に管理することで、認知機能障害による影響を最小限に抑えることが期待されると付言している。

(編集部)