米・University of MichiganのMellanie V. Springer氏らは、4つの前向きコホート研究のデータを統合したindividual participant data(IPD)メタ解析、Effect of Vascular Risk Factors on Cognitive Trajectories After Stroke (STROKE COG)試験の結果をJAMA Netw Open2025; 8: e252002)に発表。「大卒以上の学歴を有する脳卒中患者では、認知機能の1つである実行機能(executive function)の発症後の低下幅が高卒未満の患者より大きかった」と述べている。

認知機能を偏差値で捉えその変化を解析

 急性脳卒中後は認知機能の低下が長期間、加速度的に進むとされているが、学歴が脳卒中後の認知機能低下と関連するかどうかは不明である。Springer氏らは米国で実施された前向きコホート研究ARIC(Atherosclerosis Risk in Communities Study)、FOS(Framingham Offspring Study)、REGARDS(Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke Study)、CHS(Cardiovascular Health Study)のデータを統合。認知機能を全般的認知機能(global cognition)、実行機能(executive function)、記憶力(memory)の3種類に分け、高卒未満、高卒、大学中退、大卒以上の学歴別に、脳卒中脳梗塞脳出血)後の認知機能低下の推移/変化(trajectories)を解析した

 結果は偏差値(T score)として算出(偏差値1点の差は認知機能0.1標準偏差の差)し、発症後の各認知機能の推移/変化は線形混合効果モデルで推計した。

実行機能の低下のみ大卒・大学中退者で大きい

 対象は発症時に認知症でなかった脳卒中サバイバー2,019例(女性1,048例)。発症時の年齢中央値は74.8歳(四分位範囲69.0~80.4歳)、学歴の内訳は、高卒未満群339例(16.7%)、高卒群613例(30.4%)、大学中退群484例(24.0%)、大卒以上群583例(28.9%)だった。

 解析の結果、大卒以上群は高卒未満群に比べ(以下、全て高卒未満群との比較)脳卒中直後の全般的認知機能は有意に高かった(+1.09点、95%CI 0.02~2.17点)が、高卒群および大学中退群とは差がなかった。しかし、全般的認知機能低下の推移/変化については、高卒群、大学中退群、大卒以上群のいずれも差がなかった。

 脳卒中直後の実行機能については、大学中退群(+1.44点、95%CI 0.01~2.86点)、大卒以上群(+1.81点、0.38~3.24点)が高かったが、発症後の低下の推移/変化は大学中退群(-0.30点、-0.57~-0.03点)および大卒以上群(-0.44点、-0.69~-0.18点)の方が大きかった

 記憶力は、脳卒中直後は大卒以上群で高かった(+0.99点、95%CI 0.02~1.96点)。記憶力低下の推移/変化については、高卒群では差がなかった。しかし、大学中退群と大卒以上群を比較(pairwise comparison)したところ、記憶力低下の推移/変化は大学中退群の方が緩徐であった。

高学歴は認知予備力高いが落差も大きい

 以上の結果を踏まえ、Springer氏らは「コホート研究データの統合解析の結果、脳卒中後の認知機能低下の推移/変化は、教育レベル(学歴)および機能ドメインにより差があることが分かった」と結論。「学歴の高い脳卒中サバイバーの方が認知予備力は高いが、学歴の低い人と比べると実行機能が急落(steeper decline)するのかもしれない。脳卒中後の認知機能低下抑制を目的とした介入を考える際には、こういった違いも考慮すべきかもしれない」と付言している。

(医学ライター・木本 治)