思考、感情、知覚、意欲など精神機能の多くの領域で独特の症状を呈する病気です。脳の組織に肉眼的な異常がないために、原因不明の疾患と思われてきましたが、最近脳の形態やはたらきに異常が見つかりつつあります。現時点では、神経シナプスにおける情報伝達の異常が症状と関係していると考えられています。かつては精神分裂病といわれていました。発病のピークは20歳代前半で、慢性化する傾向があります。
罹病(りびょう)危険率(一生の間に発病する確率)は約1%、有病率(人口1000人中の病人の割合)は3~5人です。精神科全体では20%程度、入院患者では50%程度を占め、精神疾患のなかで多い病気の一つです。
[原因]
脆弱(ぜいじゃく)性とストレスが原因していると考えられています。脆弱性とは病気のなりやすさをいうことばで、遺伝的背景、妊娠中や周産期の感染や外傷、アルコール・薬物乱用などがあります。遺伝的要因は発病のリスクを高めますが、発病した人の大多数には精神病の家族歴はありません。
ストレスには、受験、就職、結婚、離婚など生活上の出来事や友人関係、家族関係などから生み出される持続的な精神的ストレスがあります。
また、病気の症状が多彩であったり治療に対する反応がさまざまであることなどから、一つの疾患ではなく症候群と考えたほうがよいくらいです。
[症状]
□急性期の症状
幻覚、妄想、興奮などの、誰の目にも異常と見える症状が前面に出てくる時期です。このような症状を陽性症状と呼んでいます。幻覚としては、幻聴や幻視が多く、特に人の声が聞こえるというタイプの幻聴が多く出現します。聞こえる内容にも特徴があり、「……しなさい」といった命令調のもの、「またあんなことをして」といった批判的なもの、「○○さんはいまこんなことをしています」といった実況中継風といった具合です。また第三者どうしが自分のことを論評するといった手の込んだ幻聴も特徴的です。
妄想としては被害的な内容が多く、うわさされる、迫害される、監視される、盗聴されるといった類です。
感情的に不安定になり、切迫感が強い状態になります。また言語がまとまらなくなったり、興奮や昏迷(こんめい)の状態もよくみられます。食欲が低下し睡眠が障害されて昼夜のリズムが乱れがちになり、周囲とのコミュニケーションもうまくいかなくなります。
病状が進むと自分が病気だという意識をもてず、周囲が受診をすすめても受けつけないという状態になることもしばしばあります。
急性期はそれほど長くは続かず、多くは数週間程度です。陽性症状に対しては薬がよく効きますので、この時期は薬物療法が中心になります。また必ずしも入院を要するわけではありません。しかし本人が希望する場合、家族の看護がむずかしくなった場合、症状が重い場合(他人を害したり、自殺行為〈自殺企図〉がみられる場合)には入院を考慮します。
□回復期の症状
陽性症状が徐々に減り、自分を取り戻していく時期です。陽性症状に巻き込まれる度合いも少なくなっていきます。
陽性症状は完全に消える場合から相当程度に残ってしまう場合まで、回復の度合いに大きな差がありますが、初回エピソード(はじめて症状があきらかになったとき)では幻聴が消失する割合が90%程度です。この割合は、再発をくり返すごとに低下するようで、再発の防止が治療上重要になります。
陽性症状が減るとともに陰性症状と呼ばれる症状が目立つようになることがあります。陰性症状とは、感情の鈍麻(喜怒哀楽の表現が乏しくなる)、会話の乏しさ、意欲の低下、ひきこもりなどの症状で、一見したところでは異常とはみえないような症状のことをいいます。また、回復期にうつ病のような状態になることもあります。
この時期は、薬物療法を続けつつ現実面への接触を進めていきます。
□安定期の症状
陽性症状、陰性症状ともにある程度固定する段階です。
すべての人が症状を残すわけではありませんが、だいたい70~80%の人には症状が残ります。
陰性症状が強い場合は、他人とのコミュニケーションや、家事・仕事の能力や、社会資源を利用する力が低下するので、ただちにもとの生活に戻るのがむずかしいのです。このような障害に対しては薬の効き目は少なく、心理社会的治療(後述)が適応されます。
[病型]
病気の症状は非常に多彩ですが、症状の組み合わせはだいたい決まっており、いくつかの病型に分けることができます。
破瓜(はか)型と呼ばれる病型は陰性症状が中心で、ときどき陽性症状が活発になって再発をみるタイプです。若年に発症し予後がもっともわるいタイプです。
緊張型と呼ばれるのは、興奮や昏迷の症状が主体で陰性症状は比較的少ない病型です。若年に発症し予後はよいほうです。
妄想型と呼ばれる病型は文字どおり妄想や幻覚が主体で、陰性症状は比較的少ないタイプです。30歳前後以降に発病し、予後はよいほうです。
[長期経過]
発病後、最初の5年くらいは症状が強く出やすい時期で、その後はしだいにおちつき、10年くらいで病状の変化が乏しくなってきます。
20年以上の非常に長い経過を調べた研究では、4人中3人はたいへん安定した状態にありました。そのおちつきどころは、治癒と軽度の障害をあわせて50~60%です。また、常時介護を要する重度の障害は10~20%で、治療を受けていない人は4人に1人程度です。
職業的に自立できるかどうかは社会状況にも規定されますが、群馬大学の調査では自立と半自立をあわせて60%程度でした。従来、統合失調症の3分の1は治り、3分の1は治らず、残りの3分の1はよくなったりわるくなったりするといわれてきましたが、それよりも調査結果はよかったといえます。
[治療]
治療の目標は、症状の改善と社会的な適応性を高めることです。そのために薬物療法と心理社会的治療を組み合わせます。急性期には薬物療法が、安定期には心理社会的治療が中心です。
治療は、本人が安心できる環境ですすめる必要があります。そのために急性期の入院治療はできる限り最小限度に抑え、早期に在宅治療に切り替える必要があります。また、治療者との関係も重要で、できるかぎり同じ医師や医療スタッフと接触することが望ましく、病院を変わる場合も治療方針が継続されることが大切です。
□薬物療法
こころのはたらきに作用する薬は、一般に向精神薬、あるいは精神安定薬といわれています。種類としては、抗精神病薬、抗うつ薬、気分調整薬、抗不安薬、精神刺激薬などがあります。統合失調症では、抗精神病薬を主薬とし、抗うつ薬、気分調整薬、抗不安薬を補助的に使用します。
・抗精神病薬の効果
この薬には2つのはたらきがあります。1つは文字どおり精神病症状を抑えること、2つ目は病気の再発を予防することです。
第1の効果では、幻覚をなくしたり減らしたりする、妄想をとり去ったりこだわりを少なくしたりする、思考にまとまりが出てくる、興奮・昏迷などの行動面の異常がなくなり感情的に安定してくる、といったことがみられます。
第2の効果では、回復期や安定期にあって病気の再発を予防します。薬を服用していない人にくらべて再発率を大幅に抑えることが証明されています。
・抗精神病薬の種類
定型的抗精神病薬と非定型的抗精神病薬の2種類があります。
前者はこれまで長い期間使用されてきた薬ですが、副作用(後述)のために長期間の使用に耐えがたい面があるので、最近では後者の非定型的精神病薬がおもに処方されています。
・服薬量と服薬期間
急性期には症状にあわせて薬の量をすこしずつふやしていきます。その後症状の改善がみられた時点で増量をやめます。その量を数週間~数カ月間続け、副作用を確認しながら維持量を決め、以後は再発防止のため服薬を続けます。
以上の服薬量の動きは病状の変化にあわせているわけです。維持量には大きな個人差があります。
服薬期間については、専門家の間でも見解が分かれています。アメリカ精神医学会から発表されたガイドラインでは、①初回の場合は回復1年後に服薬中止が可能、②再発の場合、回復が5年間続けば服薬中止が可能、③他人を害したなどの場合は期間が限定できないという考えが示されました。中止する場合は、再発の早期徴候を認識し早めに受診できるように疾患教育を受けるなどの備えが必要です。
・副作用とその対策
副作用には軽いものと重症なものがあります。軽い場合は次回の診察まで待ってよいのですが、重症な場合は早急に医師に相談する必要があります。
軽いものとしては、眠気、かすみ目、便秘、口渇、頻脈、立ちくらみ、手指のふるえなどがあります。重症なものとしては、皮膚の発疹(ほっしん)、けいれん、静止不能状態(アカシジア)、筋肉のこわばり、口周囲の不随意運動、月経の変化、高熱などがあります。
非定型抗精神病薬は過度な鎮静やパーキンソン症状などの副作用が少なく、飲み心地がよくなって服薬継続率が向上したといわれていますが、いっぽうで体重増加がみられたり、静止不能状態(アカシジア)が現れたり、薬剤によっては月経が不規則になったり、血糖値の上昇、
糖尿病の悪化などの副作用がみられることがあるので注意が必要です。
副作用の対策としては、薬の中止や減量、他剤への変更がふつうですが、場合によっては出てきた副作用を押さえるための薬が処方される場合もあります。手指のふるえ、静止不能状態、筋肉のこわばりに対して抗パーキンソン薬を併用するのはその一例です。
抗精神病薬はかなり安全性の高い薬で、大量に飲んでも致死量に達することはまずありませんし、長期の連用もききます。したがって再発防止などの効果をもたらすために長期連用することができるという有利さがあります。しかし実際には、副作用のために服薬を中断してしまうケースが多いのです。副作用がでたときは、医師に相談して対策をたてることが大切です。
□心理社会的治療
陽性症状が改善しても陰性症状が残っている場合は、対人機能が障害されたり職業能力が低下したりします。このような機能の回復のためにいろいろな心理社会的な治療法が必要です。
・個人精神療法
治療者と患者が1対1で面接し病気の原因を理解し認識を深めていく治療です。
この病気では精神分析のように自己を振り返るような洞察的な方法ではなく、支持的な方法を用います。まず信頼関係の確立が大切で、これがないと症状の評価や規則的な服薬も保障されません。
また症状ばかりではなく日常的な悩みに対する相談もおこないます。この病気にかかると、自信をなくして迷いやすかったり、逆に周囲の忠告にあまり耳を傾けなくなったりして、社会生活が円滑にいかないことがあります。そのような場合に、治療者は相手の意見を尊重しつつ、正しい結論にいきつくよう粘り強く話し合っていきます。
・社会生活技能訓練(social skills training:SST)
対人関係改善のための認知行動療法(認知療法)に位置づけられる療法です。陰性症状が強いと自分の考えや感情をうまく伝えられなかったり、ひきこもりが強くなったりします。そのために社会適応がわるくなったり、また就職してもあいさつができなかったり、つきあいを断れなかったりし、そのためにストレスが強くなって再発につながりやすくなります。
そのような行動の改善のために、ロールプレイや宿題などの行動を通じて練習します。通常数人から10人程度のグループで数カ月を1クールとして繰り返し練習します。最近は個人面接場面などで1対1で実施する個人SSTも実施されるようになっています。
・職業リハビリテーション
職業生活で重視される集中力、規律性、持続性などを高めるための治療です。病院でおこなわれる作業療法と、地域でおこなわれるいろいろなプログラムに分けられます。
作業療法は保険診療になっており、作業療法士が担当します。
地域でのプログラムには障害の程度に応じて就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援事業などがあります。就労移行支援は企業への就労を目指す人、就労継続支援は移行支援を受けたが就労に結びつかなかった人、就労定着支援は移行支援を経て就労し半年を経たがさらに支援を要する人が利用します。そのほかに自治体が行っている職親・社会適応訓練事業や障害者職業センターのプログラムなどもあります。
・家族教育
病人を抱えた家族は、どうしてもケアのために時間をとられたり、病気を世間に知られたくないと感じたりして、社会的に孤立しがちになります。そのため、家族と病人が長い時間顔をつきあわせて緊張関係におちいることも珍しくありません。また親は、病気を生み出したのは自分のせいだと罪悪感をいだき、保護的になりすぎたり巻き込まれたりしがちになります。
このような家庭環境が患者の再発を促進するような土壌になることもあります。家族教育セッション(家族心理教育プログラム)に参加して病気について正しく認識し、同時に孤立感を解消することで、このような家庭環境が変化し再発を防止するような方向に変わります。
病院、保健所、精神保健福祉センターには家族教育をおこなっているところがあります。数回のシリーズで講義、グループ討論などをおこなっています。
(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)