AMPA受容体は脳内の主要な情報伝達を担い、記憶や学習に深く関与することが知られている。精神疾患との関連も示唆されているが詳細は明らかでない。横浜市立大学大学院生理学の波多野真依氏、同教授の高橋琢哉氏らは精神疾患〔統合失調症、双極性障害、うつ病、自閉症スペクトラム障害(ASD)〕患者149例と健常者70例を対象に、PETを用いて脳内のAMPA受容体密度および分布を可視化して評価する横断研究を実施。各疾患における重症度とAMPA受容体密度が相関を示す脳領域および複数の疾患で共通している可能性がある脳領域を特定したと、Mol Psychiatry(2024年10月15日オンライン版)に発表した。(関連記事「世界初、うつ病へのケタミンをAMPA-PETで検証」)

4大学病院で対象を登録

 精神疾患にはシナプスの機能不全が関与するとの指摘があり、情報処理の中心的な役割を担う神経伝達物質グルタミン酸の受容体の1つ、AMPA受容体が注目されている。高橋氏らは、世界で初めてヒト生体脳におけるAMPA受容体を可視化・定量化するPETトレーサー[11C]K-2を開発(Nat Med 2020; 26: 281-288)。今回、波多野氏らは[11C]K-2を用いて脳内のAMPA受容体密度を定量化し、精神疾患との関連を検討した。

 対象は、2016年8月~22年4月に横浜市立大学病院、慶應義塾大学病院、九州大学病院、福井大学病院で登録した精神疾患患者149例と健常者70例(平均年齢36.8±10.2歳、男性41例)。[11C]K-2によるPET撮像およびMRI画像検査を受けてもらい、AMPA受容体密度を測定し解析した。

 精神疾患の内訳は、統合失調症が42例〔平均年齢38.9±9.1歳、男性30例、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)スコア:全体75.7±24.4、陽性症状18.1±7.1、陰性症状20.7±6.7、一般精神病理37.1±13.4〕、双極性障害が37例〔同41.8±8.2歳、22例、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)スコア6.2±5.3、ヤング躁病評価尺度(YMRS)スコア7.1±7.1〕、うつ病が35例(同43.0±7.4歳、27例、HAM-Dスコア10.3 ± 7.4)、ASDが35例〔同33.1±7.5歳、28例、自閉症診断観察スケジュール第2版(ADOS-2)較正重症度スコア(CSS)7.3±2.2〕だった。

双極性障害のうつ症状とうつ病で負の相関領域が異なる

 解析の結果、統合失調症群の陽性症状例におけるAMPA受容体密度は、前帯状皮質(ACC)膝前部および膝下部、帯状皮質、海馬、海馬傍回、上側頭回、左楔形部、右頭頂葉、前障を含む後島、視床、尾状核でPANSSスコアと有意な負の相関を示した〔偽発見率(FDR)補正P<0.05〕。陰性症状例では、ACC膝前部および膝下部、左海馬、海馬傍回、側頭葉、前障を含む左後島、視床、尾状核で負の相関を示した(FDR補正P<0.05)。

 双極性障害群では、AMPA受容体密度が前頭葉においてHAM-Dスコアと有意な負の相関を示した一方、小脳と後頭葉の一部では正の相関を示した(全てFDR補正P<0.05)。対照的に、前頭葉においてYMRSスコアとは有意な正の相関を示したが、小脳と後頭葉の一部では負の相関を示した(全てFDR補正P<0.05)。

 ASD群では、AMPA受容体密度が眼窩前頭皮質、ACC、前頭葉および頭頂葉などの大脳皮質領域においてADOS-2 CSSと有意な正の相関を示した(FDR補正P<0.05)。

 うつ病群では、AMPA受容体密度が前頭葉と頭頂葉においてHAM-Dスコアと有意な負の相関を示した(FDR補正P<0.05)。これらの結果から、波多野氏らは「双極性障害群のうつ症状とうつ病群で、関連を示した脳領域が異なっていた。両疾患は同じような症状が現れるが、生物学的には異なることが示唆された」と考察している()。

図.双極性障害のうつ症状とうつ病のAMPA受容体密度の負相関領域(緑:双極性障害の相関領域、青:うつ病の相関領域、赤:両疾患の共通領域)

(横浜市立大学プレスリリースより)

 健常群を参照とした解析の結果、統合失調症群ではAMPA受容体密度がACCと隣接する前頭皮質から成る前頭脳領域、および前島と前障を含む側頭脳領域において有意に低かった(FDR補正P<0.05)。

 双極性障害群では、AMPA受容体密度が前頭葉、右前島皮質、前帯状皮質で有意に低かったが、後頭葉と頭頂葉では有意に高かった(全てFDR補正P<0.05)。

 ASD群では、AMPA受容体密度が右中前頭回、前帯状回、左前島で有意に低かったが、後頭葉、下側頭葉、小脳では有意に高かった(全てFDR補正P<0.05)。

 これら3疾患のAMPA受容体密度の分布は共通しており、健常群と比べ上前頭回、中前頭回、眼窩回、直筋、島皮質前部で低く、上側頭回、楔部で高かった

 一方、うつ病群と健常群ではAMPA受容体密度の分布に有意差はなかった。同氏らは「うつ病群は健常群と連続性がある可能性が示唆された」と考察している。

 以上の結果から、同氏らは「各精神疾患において症状の重症度とAMPA受容体密度が相関を示す脳領域および、統合失調症、双極性障害、ASDで共通している可能性がある脳領域を特定した」と結論。「精神疾患の生物学的機序の一端の解明につながる知見であり、新たな診断・治療法の開発に寄与することが期待される」と付言している。

(編集部・小暮秀和)