糖尿病の診断と検査

■糖尿病の診断
 糖尿病の診断とは、糖尿病の特徴をどれだけ備えているかを総合的に判定することにほかなりません。受診時には、おもな自覚症状を的確に伝えましょう。
 家族歴では家族内の糖尿病のある人の有無、いるとすれば治療内容や合併症の有無についても大切な情報となります。これまでの最大体重(何歳のころかも含め)、女性の場合には妊娠歴、子どもの出生児体重(巨大児分娩〈ぶんべん〉の有無)も聞きます。

■糖尿病の診断基準
 図に現在の臨床診断の手順を示します。血液検査で糖尿病型かどうか、血糖値だけが糖尿病型で、糖尿病の典型的な症状か確実な糖尿病網膜症があれば、糖尿病と診断されます。検査した値が糖尿病型と確認できなくても、過去に糖尿病型を示したデータがあれば糖尿病の疑いをもって対応します。

 75gぶどう糖負荷試験(OGTT)の判定区分と判定基準値は表のとおりです。


■境界型の重要性
 ぶどう糖負荷試験(OGTT)で、糖尿病型にも正常型にも属さない血糖値を境界型と呼びます。糖尿病の一歩手前で糖尿病でないのだからと、安心できません。糖尿病の予備群の可能性と、メタボリックシンドロームの可能性が高いからです。放置すると、動脈硬化が進みやすい、糖尿病になりやすいなどから、定期的な受診が必要となります。


■妊娠糖尿病を含めた3種類の妊娠中の糖代謝異常の定義とその診断
 もともと、お母さんが栄養不足であっても赤ちゃんに栄養が行くように仕組まれているともいえましょう。妊娠中は、お母さんの血糖値は上がりやすくなっているのです。お母さんが妊娠前に肥満している、家族に糖尿病の方が多いなど、糖尿病になりやすい体質があれば、妊娠中に血糖値がさらに上がりやすくなります。よって、妊娠前から、そのような体質をもっているかどうか、調べておくことは大事なこととなります。
 妊娠中に血糖値が上昇する状態には、3種類あります。妊娠前からすでに糖尿病がある女性が妊娠した状態(糖尿病合併妊娠と呼びます)、妊娠糖尿病(妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常のことで、妊娠中の明らかな糖尿病を含みません。つまり、妊娠によって血糖値がはじめて上昇した状態のこと)と、妊娠中の明らかな糖尿病があります。妊娠中の明らかな糖尿病というのは、妊娠前に見のがされていた糖尿病と、妊娠中に発見された1型糖尿病が含まれます。妊娠後に確認する必要があります。
*妊娠糖尿病は、実際には分娩後に、糖尿病があるかどうかを確認する必要があります。

 妊娠が進んでいくにつれて、下のように、スクリーニングしていきます。


■糖尿病管理・マネジメント
 糖尿病の合併症の発症予防や進展抑制には、血糖値を良好にしておかなければなりません。血糖値を良好にしておくことを「血糖を管理する」といいます。
 糖尿病管理の良否を判定するには血糖値のほか、ヘモグロビンA1c (HbA1c)、グリコアルブミン、1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)、尿糖、尿ケトン体、血中ケトン体などが役立ちます。
 血糖値は時々刻々変化し、糖尿病の疑い状態から糖尿病となるにつれて血糖の変動幅が大きくなります。それは食事摂取、運動、薬(経口糖尿病薬、インスリン注射)の影響を強く受けるからです。したがって、血糖値の測定は、空腹時か食後か、食後何時間かということも記録することが望ましいのです。特に1型糖尿病やインスリン注射をおこなっている人の場合は、外来診療では空腹時血糖値よりも随時血糖値を測定するほうが、血糖管理を評価するうえでは大切です。2016年に特に高齢者に向けた血糖管理目標もできました。
 診断のために糖負荷試験(OGTT)が役立つことは述べましたが、あきらかな高血糖を示す人に対して、ぶどう糖負荷試験をおこなうことは無益なばかりか、検査のためにいちじるしい高血糖をきたすことがあります。それに対し、食事負荷試験は一定の食事、あるいは患者に通常の食事をさせ、その前後の血糖値(およびインスリン値など)を測定するものです。血糖値の変動や治療経過を評価するうえで役立ちます。
 ヘモグロビンA1cとは、赤血球中のヘモグロビンにぶどう糖が結合したものです。過去1~2カ月間の血糖値を反映する検査指標として、糖尿病管理の良否を判定するうえで欠かせません。診断にも補助的に用いられることは述べましたが、ヘモグロビンA1cと血糖値管理の目標を表に示します。ヘモグロビンA1c 7.0%未満を血糖管理の目標にするという考えかたは、2型糖尿病患者を対象に厳格なインスリン治療の有用性を検討した熊本スタディなどのデータを根拠に定められたものです。

 グリコアルブミンは血中のアルブミンにぶどう糖が結合したもので、過去1~2週間の血糖管理のめやすとなります。また、1,5-アンヒドログルシトールは、血中のポリオールの一種で、尿糖が排泄(はいせつ)されるような状況では血中濃度が低下することが知られており、やはり血糖管理のめやすになります。

■糖尿病の病型鑑別のための検査
 糖尿病かどうか、糖尿病管理はどうかを調べる検査に加えて、糖尿病の病型を診断(鑑別)する検査もおこなわれます。
□Cペプチド(血中・尿中)
 膵(すい)臓のβ(ベータ)細胞の中でインスリンの前駆ホルモンであるプロインスリンが産生され、分解されてインスリンが産生され、細胞外に分泌されます。そのとき、インスリンと1対1の比率で分泌されるものがCペプチドです。治療の種類にかかわらず、Cペプチドを測定することで、インスリン分泌状態を把握することができます。
 空腹時や食後2時間の血中Cペプチドやグルカゴンというホルモンを注射したときのCペプチドの分泌状態、さらに1日尿中Cペプチド排泄(はいせつ)量を測定することによってインスリン分泌能、インスリン依存性の程度を評価することができます。
□成因に関連した検査
 1型糖尿病の診断には、膵(すい)島細胞関連の自己抗体の検出が重要です。HLA(ヒト白血球抗原)のタイプ(特にDR抗原)も補助的には役立ちます。遺伝子異常による糖尿病が疑われる場合には、インフォームド・コンセントを得たうえで、末梢血の白血球からDNAを抽出して遺伝子の分析をおこなう場合があります。そのほかの糖尿病のうち二次性糖尿病の診断には、原疾患を診断するための検査(膵臓や肝臓、内分泌機能検査など)が必要です。

■糖尿病合併症の診断のための検査
 糖尿病では、次のような検査によって急性あるいは慢性合併症の有無を診断します。
□血中・尿中ケトン体
 血中のケトン体や尿中のケトン体はインスリンの作用不足を診断するのに便利です。インスリン作用不足になると、ぶどう糖の代わりに脂肪の分解が進み、ケトン体が増加します。ケトン体の増加は、1型糖尿病で起こりやすく、いちじるしい場合にはケトアシドーシスになり、糖尿病性昏睡(こんすい)におちいる危険性があります。これは急性合併症です。また、飢餓、長時間の絶食によってもケトン体がふえることを知っておいてください。
□尿たんぱく、尿中アルブミン
 尿たんぱくは腎臓の糸球体の機能低下を反映する重要な所見であり、陽性であれば慢性合併症の一つである糖尿病腎症を疑う必要があります。尿中のアルブミン排泄(はいせつ)量を定量することによって、早期腎症の診断ができるようになりました。蓄尿の一部や、早朝尿などスポット(随時)尿のアルブミン排泄量を測定し、判定します。
□血算(血球計算)・血液生化学
 糖尿病性腎症が進行すると貧血も起こります。血液生化学では、血清脂質(総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロールなど)や腎機能(尿素窒素、クレアチニン)、肝機能(AST、ALT、γ〈ガンマ〉-GTP、ビリルビン、LDHなど)、膵(すい)機能などが重要です。
□眼底検査
 糖尿病患者における慢性合併症の一つである白内障、網膜症、緑内障は視力障害(失明)の大きな原因であり、自覚症状の有無にかかわらず、視力、眼圧とともに眼底検査を定期的におこなう必要があります。眼底については網膜症の所見だけでなく、動脈硬化症や高血圧性変化の判定も大切です。
□神経機能検査
 診察で下肢の腱(けん)反射の状態を調べることは大切です。慢性合併症の一つである末梢神経障害によってアキレス腱反射や膝蓋(しつがい)腱反射の減弱や消失が高率にみられます。そのほか、振動覚の低下や痛覚の低下によって神経障害の客観的評価をおこなうことができます。
 検査室レベルでは、神経伝導速度の検査は重要です。自律神経機能検査では、起立性低血圧の有無、心電図RR間隔の変動などが役立ちます。
□心電図検査
 糖尿病では動脈硬化症も促進され、心筋梗塞などの虚血性心疾患は生命予後を左右する重大な合併症です。これも慢性合併症の一つです。
 神経障害が重症化すると、痛みの神経が障害されて無症候性心筋虚血、無痛性心筋梗塞などを発症していることが自覚症状なく認められることがあり、定期的な検査をおこなう必要があります。安静時の心電図では変化がみられないことも多く、負荷心電図もしばしばおこなわれます。

(執筆・監修:東京女子医科大学附属足立医療センター 病院長/東京女子医科大学 特任教授 内潟 安子)
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