Clostridioides difficile(CD)は、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)を契機に異常増殖して毒素を産生し生命を脅かす重篤な下痢や白血球増加などを引き起こす。患者の3分の1が再発するとされ、再発性CD感染症(rCDI)の治療には抗菌薬が用いられていたものの、dysbiosisを悪化させる可能性があることから、新たな治療戦略として糞便移植(FMT)が注目されている。米・Valley Children's HospitalのNathan Z. Minkoff氏らは、rCDI治療におけるFMTの有効性と安全性を検討したシステマチックレビューの結果をCochrane Database Syst Rev(2023; 4: CD013871)に報告した(関連記事「実臨床で糞便移植の有効性を確認)。

2021年以降、米国でFMT推奨の動き

 CDは医療関連感染で最も多く見られる原因菌の1つで、2017年だけでも米国で約1万2,800人が死亡している。従来、ほとんどのガイドラインが初発および再発の重篤でないCDI治療には抗菌薬の使用を推奨していたが、2021年に米国消化器学会(AGA)のガイドラインでは初発後CDI治療にFMTが推奨されて以降、状況は変化してきている。

 Nathan氏らは、医学データベースCENTRAL、MEDLINE、EMBASE、Conference Proceeding Citation Index、ISRTN Registryに2022年3月までに収載された成人または小児rCDI患者を対象としたFMTに関するランダム化試験(RCT)を検索。FMTの定義(健康な遠位腸管の細菌叢を含んだドナー便を消化管に投与する)を満たし、対照群が①糞便移植の非実施、②プラセボ投与、③自家糞便移植、④介入なし、⑤CDに対する抗生物質の投与―のいずれかに該当した6件・320例を抽出した。

 主要評価項目はrCDIからの回復率(下痢症状の再発なしまたは2回以上のCD陰性)および重篤な有害事象とした。副次評価項目は全死亡、有害事象、試験中止、治療の失敗、FMT成功後のCDI再発、QOLスコア、結腸切除術とした。

症状の大幅な改善が期待できるが、安全性は不明

 検討の結果、移植便の投与経路は浣腸、大腸内視鏡が各2件、上部消化管、上部消化管または大腸内視鏡(臨床医の判断で決定)が各1件だった。対照群でバンコマイシンが使用されていたのは5件、重度の免疫不全を呈する患者を除外していたのは5件だった。FMTの有効性と安全性は、全6件で認められていた。

 プール解析をしたところ、対照群に対しFMT群ではrCDIからの回復率が有意に高かった〔リスク比(RR) 1.92、95%CI 1.36~2.71、P=0.02、便益を得るための治療必要数 (NNTB)=3、エビデンスの確実性:中等度〕。重篤な有害事象はわずかに減少したが、有意差はなかった(同0.73、0.38~1.41、P=0.24、NNTB=12、エビデンスの確実性:中等度)。

 全死亡率は低下する可能性はあるものの、イベント数が少なく有意差はなかった(RR 0.57、95%CI 0.22~1.45、P=0.48、NNTB=20、エビデンスの確実性:低い)。最も多く報告された有害事象は腹痛、腹部膨満感、下痢だったが、相互に影響する可能性がある症状のため、統計解析はできなかった。試験中止はいずれのRCTもFMT群と対照群で同程度で、治療失敗例はなく、FMT成功後のCDI再発率、QOLスコア、結腸切除術率を報告したものはなかった。

 以上を踏まえ、Minkoff氏らは「免疫能が正常な成人rCDI患者では、抗菌薬などの代替治療法と比べてFMTは回復する可能性が大幅に高い」と結論。一方で、重篤な有害事象や死亡率などの安全性については、決定的なエビデンスが示されなかったことから「大規模なレジストリデータを用いて短期および長期的な評価を行う必要がある」と付言している。

(山田充康)