米・Massachusetts General HospitalのMarc S. Weinberg氏らは、膀胱がん患者へのBCGワクチン治療が認知症リスク低下と関連する可能性を示唆する後ろ向き解析の結果をJAMA Netw Open2023; 6: e2314336)に報告。「BCGワクチンは膀胱がん患者の生命予後を改善するだけでなく、認知症発症リスクも低下させる可能性がある」と述べている。

多様な疾患に対するBCGのベネフィットが報告されている

 BCGワクチンは、結核の予防に限らずさまざまな病態にベネフィットをもたらすことが示唆されており、これまでに乳児の死亡率低下、アトピー性皮膚炎の抑制、1型糖尿病予防、多発性硬化症の再燃抑制、さらに糖尿病患者における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連病態や死亡率低下との関連を示唆する報告まである。

 BCGワクチンは筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)に対する標準治療として広く使用されており、膀胱がん患者に対するBCGワクチン使用とアルツハイマー病および関連認知症(Alzheimer disease and related dementias;ADRD、以下、認知症)リスク低下との関連を示唆する一連の報告もある(PLoS One 2019; 14: e0224433Vaccines (Basel) 2021 May; 9: 491Clin Genitourin Cancer 2021; 19:e409-e416)。しかし、これらの報告はサンプルサイズやコホートの特殊性、解析方法などに問題が多い。

診断時50歳以上のNMIBC患者の電子カルテデータを分析

 Weinberg氏らは今回、Mass General Brigham (MGB)ヘルスケアシステムの電子カルテデータに基づく後ろ向き解析を実施。さらに、競合イベントとしての死亡を考慮した競合リスク解析を行い、BCGワクチン認知症リスクに及ぼす影響を詳細に分析した。

 対象は、1987年5月28日~2021年5月6日にNMIBCと診断された50歳以上の患者。診断から8週間以内に筋層浸潤がんに進行した患者と診断後1年以内に認知症と診断された患者は除外した。平均追跡期間は約15年で、データ解析は2021年4月18日~23年3月28日に実施した。

 主要評価項目は認知症発症までの期間。年齢、性、Charlson Comorbidity Indexなどの交絡因子を調整し、Cox比例ハザード回帰分析を用いて原因特異的ハザード比(HR)を求めた。

診断時年齢70歳以上ではBCG群に認知症予防効果

 6,467例のデータを解析対象とした。3,388例〔診断時平均年齢69.89歳、男性2,605例(76.9%)〕がBCG膀胱内注入療法を受け(BCG群)、3,079例〔同70.73歳、2,176例(70.7%)〕はBCG治療を受けなかった(対照群)。

  認知症を発症した患者はBCG群202例、対照群で262例、1,000人・年当たりの発症率はそれぞれ8.8、12.1だった。NMIBC診断時年齢が70歳未満の患者(3,133例)では、4.3、4.8、70歳以上の患者(3,334例)では14.5、20.9だった。

 解析の結果、対照群に比べBCG群では認知症発症までの期間が有意に長く(HR 0.80、95%CI 0.66~0.96、P=0.02)、BCGによる認知症予防効果が示唆された。

 ただし、この効果は70歳以上でのみ見られ(HR 0.74、95%CI 0.60~0.91、P=0.005)、70歳未満では有意差は消失した(同0.98、0.68~1.40、P=0.92)。

5年目までは認知症リスクも死亡リスクも低下

 死亡はBCG群751例、対照群973例だった。70歳未満ではそれぞれ300例、311例が死亡、70歳以上群では451例、662例だった。

 死亡は認知症発症の競合イベントであるため、Weinberg氏らは逆確率重み付け(Inverse probability weighting;IPW)調整を用いた競合リスク解析も実施した。その結果、対照群に対するBCG群の認知症HRは0.80(95%CI 0.69~0.99)、死亡HRは0.75(同0.629~0.82)といずれも有意に低かった。

 経時的ノンパラメトリック解析でBCG群と対照群の認知症リスク差(認知症認知症を発症しない死亡の累積発生関数の差と定義)を求めたところ、最初の5年間はBCG群で認知症発症リスク(-0.011、95%CI -0.019~-0.003)、認知症を発症しない死亡リスク(-0.056、同-0.075~-0.037)のいずれも有意に低下していることが推定された。しかし、5年を超えると両群における認知症発症のリスク差は有意差が消失した。

 以上の結果を踏まえ、同氏らは「NMIBC患者を対象とした後ろ向きコホート解析において、BCGワクチン治療と認知症/死亡率低下との関連性が同定された。しかし、対照群とのリスク差は経時的な縮小が確認された。適切なデザインによる介入試験での検証が望まれる」と結んでいる。

木本 治