ドイツ・University Hospital RWTH AachenのMara S. Vell氏らは、英国のUK Biobank(UKB)、米・University of Pennsylvania Health Systemが提供するPenn Medicine Biobank(PMBB)、国際研究ネットワークTriNetXに登録された計170万例超のデータを解析し、一般人口集団におけるスタチン系薬の常用と肝疾患リスクとの関連を検討。その結果、スタチン使用者では非使用者と比べて肝疾患の新規発症リスク、肝臓関連死リスク、肝細胞がん(HCC)発症リスクがそれぞれ低下することが示されたとJAMA Netw Open2023; 6: e2320222)に発表した。

肝疾患15%、HCC 42%、肝関連死28%のリスク低下

 解析対象は、UKB(追跡期間2006~21年)、TriNetX(同2011~22年)、PMBB(同2013~20年)の登録者から傾向スコアマッチングを用いて抽出した、肝疾患の既往歴がない計178万5,491例(平均年齢55~61歳、男性51~56%、女性44~49%)。UKB登録者(20万5,057例)ではスタチン使用者1例に対し非使用者を最大5例マッチング(使用者5万6,109例、非使用者14万8,948例)、TriNetX登録者(156万8,794例)およびPMBB登録者(1万1,640例)では1:1でマッチングした。

 主要評価項目は、肝疾患の新規発症、HCC新規発症、肝臓関連死で、全体での追跡期間中の発生数はそれぞれ9万8,497例、472例、581例だった。

 UKB登録者の解析では、スタチン非使用者と比べて使用者で肝疾患の新規発症リスクが15%〔ハザード比(HR)0.85、95%CI 0.78~0.92、P<0.001〕、HCC新規発症リスクが42%(同0.58、0.35~0.96、P=0.04)、肝臓関連死リスクが28%(同0.72、0.59~0.88、P=0.001)、それぞれ低下していた。

 TriNetX登録者ではHCC新規発症リスクがさらに低下し、スタチン非使用者と比べて使用者で74%低かった(HR 0.26、95%CI 0.22~0.31、P=0.003)。

360日以上の長期使用で有意なリスク低下

 PMBB登録者の解析では、スタチンによる肝保護効果が使用期間に依存することが示された。360日以上の長期スタチン使用で肝疾患の新規発症リスクが24%有意に低下したのに対し(HR 0.76、95%CI 0.59~0.98、P=0.03)、短期使用(30~180日)では有意なリスク低下が認められなかった。

 スタチンによる肝保護効果は肝疾患の遺伝的リスクを有する者で特に強く、PNPLA3 rs738409ヘテロ接合性変異の保有者では、スタチン使用によりHCC発症リスクが69%有意に低下した(HR 0.31、95%CI 0.11~0.85、P=0.02)。

 さらに、スタチンによる肝保護効果は特に男性、ベースラインの肝線維化指標Fibrosis-4 indexが高値の者、糖尿病患者で強かった。

 以上を踏まえ、Vell氏らは「スタチンは肝疾患の発症予防を目的とする治療の選択肢になりうることが示された」と結論。「ただし、スタチンを肝疾患の予防薬として推奨するには、ランダム化比較試験で結果を検証する必要がある」と付言している。

(太田敦子)