エムポックスは、米国では2023年3月時点で3万例超が、日本では同年7月時点で約200例が確認されている。米国では、2019年に米食品医薬品局(FDA)によって天然痘/エムポックスワクチン(MVA-BN)JYNNEOSの皮下投与が承認された他、2022年には同ワクチンの皮内投与に対する緊急使用承認(EUA)が発行されたものの、リアルワールドでの有効率は不明である。そこで米・疾病対策センター(CDC)のNicholas P. Deputy氏らは、全米規模の電子診療録(EHR)のデータに基づく症例対照研究を実施し、その結果をN Engl J Med2023;388:2434-43)に発表した(関連記事「米CDCが今夏のサル痘再流行の可能性について警告」)。

症例群2,193例、対照群8,319例を解析

 調査期間は JYNNEOS緊急使用承認以降の2022年8月15日~11月19日とした。EHRのデータから、エムポックス診断コードが記録された例、またはオルソポックスウイルス/エムポックスウイルス検査での陽性例を症例群として抽出した。エムポックス患者の多くはHIV感染者で、HIV感染に対する曝露前予防内服(PrEP)を行っていた者が多いことを踏まえ、エムポックス非感染の新規HIV感染例またはPrEPの処方例を対照群として登録した。

 条件付きロジスティック回帰モデルを用いてオッズ比(OR)を算出。調整因子として年齢、人種や社会的脆弱性指標(SVI)スコア、免疫不全の有無を組み込んだ。ワクチンの有効性および調整後ワクチン有効率は(1-調整OR)×100で算出した。

 組み入れ条件を満たした症例群2,269例と対照群8,649例について背景を検討したところ、両群で法的性差、性自認ともに顕著な差は見られなかった。一方で、対照群と比べ症例群は年齢が若く、非ピスパニック/ヒスパニック系黒人が多かった。

 症例群2,193例と対照群8,319例をワクチン有効率の解析対象とし、接種歴別に調整後ワクチン有効率を算出した結果、1回接種では35.8%(95%CI 22.1~47.1%)、2回接種では66.0%(同47.4~78.1%)だった()。

表. 症例群と対照群のワクチン接種歴別の調整後ワクチン有効率

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(編集部作成)

皮下投与、皮内投与の交互接種で有効率が上昇

 また、ワクチンを2回接種した人のうち、交互接種(皮下投与と皮内投与を1回ずつ実施)での調整後ワクチン有効率は75.2%(95%CI 48.0~88.2%)だった。ワクチン接種状況が症例群または対照群に及ぼす影響を表すE-valueは中等度であることが示された(相対リスク2.5以上)。

 以上を踏まえ、Deputy氏らは「JYNNEOSはエムポックス予防に有効であり、2 回接種は防御効果がより高いことが示唆された」と結論。その上で「本研究は観察研究であり、投与経路や重症転帰リスクのあるサブグループにおけるワクチンの有効性に関してはさらなる研究が必要である」と付言した。

(山田充康)

※今年(2023年)5月26日に感染症法上の名称がサル痘からエムポックスに変更された