医学トップの視座

オールジャパンの発想で他大学と連携
~人のやらないことをやりオンリーワン~
―福井大学医学部―


福井大学の藤枝重治医学部長

 福井大学医学部は曹洞宗の大本山・永平寺に近く、落ち着いた環境の中にある。一県一医大構想に基づき、1980年、福井医科大学としてスタートした。天然痘の撲滅のため、種痘の普及に取り組んだ福井藩の蘭方医・笠原良策(白翁)の精神を受け継ぎ、人と社会を健やかにする医療人の育成を目指している。藤枝重治医学部長は「人口の少ない福井でも、他の大学と連携すれば可能性はいくらでも広がる。得意分野を一つに絞って、オンリーワンを目指したい」と話す。

 ◇独自のオンラインシステムでコロナ対応

 福井で新型コロナウイルス感染症の初の感染者が出たのは、2020年3月。都会に比べて感染の広がりは少ないとはいえ、対策を緩めてよいというわけではない。

 福井大学医学部は民間企業と共同で、遠隔授業支援システム「F.MOCE」(Fukui-Medical Online Communication &Education System)を開発、いち早くオンデマンド型の授業を導入した。

 「ライブでやるには、かなりの費用がかかります。そこで、グーグルが教育機関向けに無償提供するクラウド型教育プラットフォームを活用しました」

 21年4月から全面的な対面授業に切り替えようとした矢先に、学生に感染者が出た。

 「医学部長に就任して2日目のことでした。濃厚接触者を検査した結果、もう一人見つかったので、授業をすべてストップして、再びオンラインに。4月、5月はほとんどコロナ対応に追われました」

 授業のオンライン化が学生の学力にどのように影響するかは、大学にとって懸念材料の一つである。

 「よく勉強する学生は録画を何回も見て、普段から授業にも出ない学生は見ない。どんどん差が広がってしまいます。留年せずに卒業し、全員が国家試験に合格することを目指しています。成績低下につながらないよう、指導に一層力を入れています」

 ◇得意分野に集中する取り組み

 臨床では地域の医療機関で対応できない患者をすべて受け入れるが、研究に関しては得意分野を絞ってのオンリーワンを目指す。

 「大規模な大学のように、あらゆる分野でトップを目指すのではなく、各診療科で必ず一つだけは得意なものをつくろうという方針です。広く狙わず、一つ明確なものを見つけて、人に自慢できるものをつくりたい。これがうちの大学の生き残り戦略の一つだと思っています」

 附属病院内に設置した福井アレルギー疾患対策センターでは、食物アレルギーに対する経口免疫療法の臨床研究をはじめ、対応が困難なアレルギー疾患全般を対象としている。子どものこころの発達研究センターでは、不適切な養育(マルトリートメント)が、脳に与える影響などをMRIや遺伝子レベルで明らかにする研究などが行われ、子どもの「こころ」に着目した日本をリードする存在として注目を集めている。

創設時の福井医科大学の名前をキャンパスに残す

 ◇内科医を増やしたい

 多くの地方大学と同様、卒業後、地域医療を担う医師の育成が大きな課題だ。

「入学試験の面接では、100人全員が『地域医療に興味がある』と答えますが、やはり卒業後は東京や大阪に戻ってしまう学生が多いです」

 このため入学試験では、卒業後9年間は福井県で医師として働くことを条件に、奨学金を支給する福井県健康推進枠と卒業後3年間残る地域枠を設けた。

 特に不足している内科医を増やすため、総合診療・総合内科センター(Global General Good Doctor)を設置、福井県のみならず、全国の医師に門戸を開いて、地域に必要とされ、総合的臨床能力を持つ医師の養成に貢献している。NHKの人気医療番組『総合診療医ドクターG』でも知られる林寛之教授がセンター長を務める。在宅も含めた地域医療を拡充するため、大学が指定管理者となって、町が運営する永平寺町立在宅訪問診療所も開設した。国立大学としては全国初の取り組みだ。

 都会のような華やかさはないが、食べ物がおいしく、住みやすい環境が気に入って福井にとどまる学生も少なからずいるという。

 「兄弟3人全員が他県から続々と福井大学に入学してきたケースもありました。福井の学生は、おとなしくて、みんな真面目。もう少し都会の学生のような快活さがほしいとも思いますが、医師になるときちんと活躍してくれています」

 ◇学生用の電子カルテシステム

 入学して間もなく、学生全員が永平寺で座禅を組む。永平寺町にある福井大学ならではの特色を生かした行事で、学生たちには思いのほか好評だという。

 「日ごろスマホばかり見ている学生には、とても新鮮な体験だと思います。半日、説教を聞いて座禅を組むことで、これから福井大学で学ぶという心構えができると思います」

 1年生の早い段階で解剖学実習を行っている。

 「1年生でやるのはかわいそうだという声もあったのですが、結果的にはよかったと思います。医師になる自覚ができて、一生懸命勉強するので遊んでしまって留年する学生がいなくなりました」

 学生用の電子カルテを独自に開発し、他の教育機関にも注目されている。附属病院で使用している電子カルテが画像データとともに閲覧できて、そこに学生がコメントを書き、それに対して教員がコメントするなどの一連の流れを、同じ画面上で行うことができる。

 「誰が何を見たのか閲覧履歴が残るので、安心できますし、学生も緊張感をもって見るようになります。閲覧範囲は各診療科で異なり、決められた患者さんだけという場合もあれば、すべて見ることができる診療科もあります」

 看護学科と医学科の学生が一緒に授業を受ける多職種連携プログラムも学生に好評だ。

国家試験を目指す学生は図書館で勉学に励む

 ◇現役生国試合格率1位に

 藤枝医学部長は福井生まれ福井育ち。小学校に入る前はぜんそくで養護学級に入るほど体が弱かった。かかりつけ医から「将来は医師になるといい」と言われたのがきっかけで、この道に進んだ。

 福井医科大学の一期生ということもあり、福井大学医学部への思い入れは人一倍強い。

 「できたばかりの何もない大学でしたが、やる気だけはみんなありました。学生の頃から、人のやっていないことをやれ、何をやってもいい、という学風があり、自分から進んでやる姿勢が身に付いたと思います」

 医学部卒業後は恩師に誘われるまま耳鼻咽喉科に入局した。

 「学生にも『乞われているところに行きなさい』と言っています。好きな人のところに行くより、好きになってくれている人のところに行く方が幸せになれる。あなたが幸せなら私は幸せ。留学先の米国のボスから学びました」

 耳鼻咽喉科の教授に就任して20年、診療科や大学の垣根を超えた共同研究を数多く手掛けてきた。

 「福井だけでは人口も少なくて、研究対象となる患者さんの数も十分ではありません。独自のアイデアを持って、いろいろなところと共同研究して、オールジャパン体制でやっていくことが必要だと思っています」

インタビューに応じる藤枝医学部長

 医学部長に就任する前は、前医学部長に頼まれて、2019年度に全国76位まで転落した国家試験合格率を、たった1年で現役生を1位(100%)にまで引き上げた。

 「卒業試験の試験問題を国家試験と同じ形にして3回形式にし、試験に1回落ちた学生には一人ずつ面接をして、1日10時間勉強させるようにしました」

 福井大学医学部を少しでもよくしたいという熱意が学生たちに伝わった結果だろう。

 ◇患者に寄り添うことの意味

 医師を目指す学生には、患者に寄り添うことの意味をよく考えてほしいと話す。

 「患者さんの希望がすべてではないと思うのです。本当は手術が一番いいと誰もが分かっていても、本人に『手術したくない』と言われると、今の若い先生たちは『手術は無理です』と引き下がってしまう。大事なのはその人の人生に支障がなくなること。自分の親だったらどうするか、という視点で、ベストな治療方針を進められる医師に育ってほしい」

(ジャーナリスト・中山あゆみ)

 藤枝 重治 福井県出⾝。 福井医科⼤学医学部医学科卒、福井医科⼤学⼤学院医学研究科博⼠課程修了。 国⽴鯖江病院厚⽣技官⽿⿐咽喉科、 福井医科⼤学医学部⽂部教官助⼿、カリフォルニア⼤学ロサンゼルス校(UCLA)臨床免疫アレルギー科に⽂部省⻑期在外研究員。福井医科⼤学医学部附属病院講師、 福井医科⼤学医学部⽿⿐咽喉科学講座教授、 福井⼤学医学部・感覚運動医学講座・⽿⿐咽喉科頭頸部外科学教授。福井⼤学医学部附属病院副病院⻑、 福井⼤学教育研究評議会評議員などを歴任。 福井⼤学医学系部⾨副部⾨⻑、2021年 4月から 福井大学医学系部門部門長、医学部長、医学系研究科長。


【福井大学医学部 沿革】

1978年 福井医科大学設置

  80年 福井医科大学開学

  83年 医学部附属病院開院

  86年 大学院医学研究科設置

2003年 福井大学と福井医科大学が統合し、福井大学医学部となる

  04年 国立大学法人福井大学が発足し、福井大学を設置

  12年 子どものこころの発達研究センター設置

  19年 永平寺町立在宅訪問診療所開所


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