エムポックス〔えむぽっくす〕 家庭の医学

 サルに痘瘡(とうそう:天然痘)を起こすモンキーポックスウイルスによる急性発疹(ほっしん)性感染症です。
 リス、サルなどの野生動物、あるいはそれらから感染したペットにかまれる、あるいは血液、体液、発疹などに触れることで感染します。人から人への感染はまれですが、飛沫(ひまつ)による感染、あるいは体液、患者の体液や飛沫で汚染された衣類・寝具などとの接触による感染がありうるとされています。2022年5月以降、 欧米を中心に、常在地域への渡航歴のないエムポックス症例が相次いで報告され、MSM(men who have sex with men)を中心とした性的接触による伝播が原因ではないかと考えられています。2022年7月以降、国内での発症も報告されています。潜伏期は7~21日(大部分は10~14日)で、発熱、不快感、頭痛、背部痛、発疹など、痘瘡とよく似た症状がみられますが、致死率は1?10%程度と低いです。2022年5月以降の欧米を中心とした流行では、病変が会陰(えいん)部・肛門周囲や口腔などの局所に集中しており、全身性の皮疹(ひしん)がみられないなど、これまでに報告されてきた典型的なエムポックスの臨床像とは大きく異なっているようです。
 種痘は、エムポックスの予防に効果があると考えられていました。事実、WHO(世界保健機関)の天然痘根絶宣言により種痘が全廃されて以降、1981年から86年までのコンゴ共和国における調査では338人がエムポックスを発症しています。日本では、76年に定期の種痘はなくなりました。したがって、天然痘およびエムポックスに対する免疫力は低下していると考えられています。エムポックスの予防には、国産の天然痘ワクチンLC16m8ワクチンの接種が有効とされています。
 診断は、水疱(すいほう)、膿疱、血液、リンパ節からの病原体、病原体抗原、病原体遺伝子の検出によります。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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