子供の学校などでの居眠りは「授業に対する関心や意欲が低い」と捉えられることも多く、見過ごされやすい。しかし、居眠りの背景には衝動行動、成長の遅れ、易疲労感、睡眠障害などのさまざまな問題が潜んでいる可能性があり、睡眠習慣の支援や睡眠障害への早期介入を要することもある。日本睡眠学会が制定に携わった9月3日の「秋の睡眠の日」に合わせ、日本睡眠学会理事長で久留米大学学長/神経精神医学講座名誉教授の内村直尚氏は、成長期の子供の睡眠と関連疾患について、東京都で開かれたメディアセミナー(主催=アキュリスファーマ、8月31日)で解説した。

13歳児は米国の推奨睡眠時間より1時間以上短い

 日本人の平均睡眠時間は7時間22分と短く、経済協力開発機構(OECD)の2021年度調査では30カ国中最下位だった(1位は南アフリカの9時間13分、平均は8時間24分)。子供においても11歳以降には睡眠時間が短縮し、13歳児では7時間54分と米国の推奨時間(9~10時間)より1時間以上短いことが報告されている。

 内村氏は「睡眠不足は前頭前野の活性低下を介して記憶、認知機能、意欲、集中力を低下させ、行動・感情の制御が困難になるなど、発達障害に類似した症状を引き起こす」と指摘。大人と比べて子供は生体時計も脆弱なため、不規則な生活により睡眠・覚醒相がずれやすく、日中の眠気や学業成績の低下につながりやすい。そのため、小児期には十分な睡眠時間を確保し、規則正しい睡眠習慣を確立することが重要だという。

睡眠時無呼吸症候群は身体発達の遅れも

 日中の居眠りの背景には、睡眠障害の存在も考えられる。その1つが閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)である。上気道の狭窄により睡眠中に呼吸が頻回に止まり、低酸素状態が発生する。子供では特に、成長ホルモンの分泌や食欲が低下することで身体発達の遅れ、脳機能の発育などへの影響が懸念されるという。また、夜尿、漏斗胸、顎顔面の発育抑制の危険因子でもある。

10歳代で好発するナルコレプシー

 会話、食事、歩行の最中でも強烈な眠気(睡眠発作)が出現するナルコレプシーは、10歳代に好発し有病率は0.2~0.6%とされる。喜怒哀楽の情動を契機として全身または顔面、首、膝などが脱力する情動脱力発作、覚醒しているのに体を動かしたり話したりすることができなくなる睡眠麻痺なども特徴的な症状である。

 ナルコレプシーは睡眠習慣の改善だけでは対処できないため、内村氏は「睡眠習慣を是正しても眠気が改善しない場合は、ナルコレプシーの可能性を考慮すべき」と強調した。

神経発達症の児の多くが睡眠の問題を抱える

 神経発達症については注意欠陥・多動性障害(ADHD)児の20~50%が、自閉症スペクトラム障害(ASD)児の65%以上が睡眠の問題を抱える。睡眠の問題が多動、衝動性、不注意などの発達障害の症状を増強する他、ASD児の常同行動、こだわり、知覚過敏を惹起しやすいことが知られる。また、治療薬の副作用で不眠が現れる場合がある一方、一部の治療薬では傾眠が認められるという。

 なお、睡眠不足が原因の衝動行動は神経発達症と類似しているため誤診されるケースもあり、慎重な鑑別が必要となる。

学校から居眠りの指摘も、4割の家庭が対応せず

 アキュリスファーマが今年(2023年)8月、全国の小中高校の教員1,800人と保護者1,200人を対象に行ったアンケートでは、居眠りをする生徒の保護者に「状況を伝えている」と回答した教員は約40%、学校から居眠りを指摘された際に「何も対応をしなかった」と回答した保護者は約40%を占めていた。また、10歳代に好発するナルコレプシーについては、保護者の約70%が「病名も聞いたことがない」と回答した。

 内村氏は「子供は眠気を適切に訴えることが難しく、睡眠障害は診断が困難で見過ごされるケースも少なくない。正しい睡眠教育や保護者への啓発とともに、適切な注意および支援が必要だ」と訴えた。

 また、セミナー後のMedical Tribuneの取材に対し、同氏は「小児OSASの有病率は2~3%とされるが、予備軍である習慣性いびき症の有病率は20~30%ともいわれており、診断に至っていないケースを含めるとさらに多い可能性がある。幼少期の頻回のいびきはOSASの発症リスクにもなる」と早期の診断の重要性について指摘。

 ADHD治療薬の副作用としての不眠や傾眠については、同氏は「症状を抑えられる用量を確保する必要はあるものの、日中に極端な眠気を来すようであれば主治医は減薬を考慮したり、患児に対し適切な服薬タイミングの指導をすべきだ」と付言した。

(植松玲奈)