オランダ・University Medical Center UtrechtのLinda P T Joosten氏らは、フレイルを有する高齢の心房細動(AF)患者に対するビタミンK拮抗薬(VKA)継続と直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)へのスイッチを比較するプラグマティック多施設非盲検ランダム化比較試験(RCT)FRAIL-AFの結果をCirculation(2023年8月27日オンライン版)に発表。「血栓塞栓性イベントの発生率に両群で差がなかったが、DOAC切替群における出血合併症発生数はVKA継続群より69%多かった」と報告した。試験は独立安全性モニタリング委員会の勧告により中止された。

フレイルの出血への影響に関するエビデンスは乏しい

 脳卒中心不全などさまざまな転帰と関連するAFの発生リスクは、年齢と密接に関連する。VKAとDOACで脳卒中予防効果は同程度であるものの、出血リスクはDOACの方が低いことが複数のランドマーク試験で示されており(Lancet 2014; 383: 955-962)、フレイルのないAF患者に対してはDOACが頻用されている。しかし、フレイルが出血転帰に及ぼす影響については観察研究のデータのみで、臨床試験によるエビデンスはほとんどない。

 そこでJoosten氏らは、オランダの8つの専門施設でVKA治療中のフレイル患者を登録し、研究者主導のプラグマティックRCTを実施した。

 主要評価項目は、大出血(major bleeding)または臨床的に重要な非大出血(clinically relevant non-major;CRNM)。

DOAC切替群で出血イベント69%増

 対象は、2018年1月~22年4月に同意を得た75歳以上のフレイル合併AF患者1,323例。弁膜症性AFは除外し、フレイルの有無はGroningen Frailty Indicator(GFI)で評価し、3項目以上に該当する者を対象とした。

 DOAC切替群〔VKAを中止し、国際標準化比(INR)が1.3未満になった時点でDOACを開始)に662例(女性274例)を、VKA継続群に661例(同239例)を割り付けた。

 平均年齢はDOAC切替群83.0±5.1歳、VKA継続群82.8±5.1歳、GFIとCHA2DS2-VAScスコアは両群ともそれぞれ4項目(四分位範囲3~6項目)、4.0点(同3.0~5.0点)だった。

 12カ月追跡した時点で主要評価イベント(大出血/CRNM)の発生数がDOAC切替群で101件(15.3%)、VKA継続群で62件(9.4%)〔ハザード比(HR)1.69、95%CI 1.23~2.32、P=0.00112〕となり、事前に設定した無益性解析(futility analysis)により無益と判定されたため試験は中止された。

 血栓塞栓性イベントの発生率に両群で差はなかった〔DOAC切替群16例(2.4%)vs. VKA継続群13例(2.0%)、HR 1.26、95%CI 0.60~2.61〕。

高齢フレイルのDOACへのスイッチは慎重に

 Joosten氏らは「フレイルの高齢AF患者を対象とした大規模なプラグマティックRCTでエビデンスを提供できたことが研究の強みである」と強調。

 VKA治療におけるINR管理が優れ、至適範囲内時間(TTR)が良好であったことが、VKA継続群の出血イベントが少なかったという結果に影響した可能性について、同氏らは「組み入れ基準としてTTRレベルは考慮せず、各施設のTTRは確認していないが、参加8施設のINRモニタリングはオランダの臨床に沿って行われた。本試験期間中におけるオランダのTTRは65.3~74.0%であったが、この数字はアピキサバンとワルファリンを比較したARISUTOTLE試験におけるオランダのTTR平均値66.4%に近く、米国や英国、イタリア、ドイツ、カナダなどと同レベルだ(Circulation 2013; 127: 2166-76)」と説明。今回のINRモニタリングが他の試験と比べ厳格であったわけではないとしている。

 以上の結果を踏まえ、同氏らは「高齢のフレイル合併AF患者において、VKAをDOACへ変更する際は慎重な検討が必要だ」と結んでいる。

(木本 治)