ドイツ・Technische Universität DresdenのMrija Lugar氏らは、1型糖尿病高リスク児が対象のプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験Primary Oral Insulin Trial(POINT)の補助研究として、乳児の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染と膵島自己抗体発現との経時的関連の有無を検討し、結果をJAMA(2023年9月8日オンライン版)に報告。「1型糖尿病高リスク児において、SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体産生との間に時間的関連性(temporal relationship)が認められた」と述べている。

1型糖尿病の遺伝的リスクの高い乳児を対象

 小児の1型糖尿病では、複数の膵島β細胞に対する自己抗体の発現が発症に先行するが、遺伝的リスクを有する乳児での自己抗体発現は1歳ころがピークとされている(Diabetologia 2015; 58: 980-987)。

 POINTは、経口インスリンパウダーの投与が1型糖尿病の高リスク小児の膵島自己抗体発現を減少させるかを検討するGlobal Platform for the Prevention of Autoimmune Diatebets(GPPAD)による試験で(BMJ Open 2019; 9: e028578)、現在も進行中である。SARS-CoV-2感染との関連を検討する補助研究は2021年10月に提案された。

 対象は、遺伝的に定義された膵島関連自己抗体産リスクが10%以上で1型糖尿病高リスクの乳児1,050例(女児517例)。登録時の年齢は4~7カ月。

 ベースラインで膵島自己抗体陰性だった885例(女児441例)を今回の補助研究の対象とした(国籍はドイツ407例、ポーランド216例、スウェーデン160例、ベルギー71例、英国31例)。

コロナ抗体陽性例は自己抗体発現リスクが3.5倍

 2018年4月~22年6月に、2~6カ月間隔でフォローアップ診察を2歳になるまで実施した。170例(年齢中央値18カ月、範囲6~25カ月)がSARS-CoV-2抗体陽性を示した。また、60例で膵島関連自己抗体が確認された。

  60例中6例は膵島関連自己抗体とSARS-CoV-2抗体の陽性判定が同時であり、別の6例はSARS-CoV-2抗体陽性後の診察で膵島関連自己抗体陽性が判明した。 残りの48例については、抗体検査のみでSARS-CoV-2の感染時期は特定できないため、膵島関連蛋白発現時期との前後関係は不明である。

 性、年齢、国籍で調整後のSARS-CoV-2抗体陽性児における膵島関連自己抗体陽性のハザード比(HR)は3.5(95%CI 1.6~7.7、P=0.002)だった。

 100人・年当たりの膵島関連自己抗体発現率(incidence rate of islet autoantibodies)はSARS-CoV-2抗体陰性例の3.5(95%CI 2.2~5.1)に対し、陽性例では7.8(同5.3~19.0)と有意に高かった(P=0.02)。

 また、生後18~24カ月にSARS-CoV-2抗体陽性となった児と比べ、18カ月以前に陽性となった児では膵島関連抗体陽性リスクが有意に高かった(HR 5.30、95%CI 1.50~18.30)。 
  
 膵島関連抗体出現リスクとの関連は、SARS-CoV-2抗体陽性判明時の年齢が12~16カ月だった児で最も著明であり、これは1型糖尿病の遺伝的高リスク児における膵島関連抗体発現時期のピークと一致していた(Diabetes Care 2021; 44: 2260-2268)。

児の年齢と感染交絡因子がないことは研究の強み、だが...

 研究の強みとしてLugar氏らは、①膵島関連抗体発現リスクが最も高い時期の児を追跡した、②コロナパンデミック下であったことから、交絡因子となりうる他のウイルス感染のリスクの可能性が低い―ことを指摘。

 一方、研究の限界として①対象が遺伝的に1型糖尿病高リスク児に限定されている、②SARS-CoV-2感染歴の有無のみを調べ、PCR検査は実施していない、③SARS-CoV-2抗体陽性例における膵島関連抗体発現がコロナ感染の前が後かは確認できない―としている。

木本 治