ベルギー・Université Catholique de LouvainのJean-Luc Balligand氏らは、β3アドレナリン受容体の活性化が左室(LV)リモデリングを抑制することに注目し、過活動膀胱治療薬である選択的β3アドレナリン受容体作動薬ミラベグロンがプレ心不全(Pre-HF、ステージB)または軽度心不全(HF)患者におけるLV肥大(LVH)およびLV拡張機能不全の進行を予防するかどうかを第Ⅱb相前向き三重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)Beta3-LVHで検討。12カ月間追跡した結果、ミラベグロン群とプラセボ群でLV心筋重量係数(LVMI)およびLV拡張機能に有意差はなく、有害事象の発現率は同等だったとJAMA Cardiol2023年9月20日オンライン版)に発表した。

1年投与後のLV心筋重量・拡張機能はプラセボと差なし

 現時点では、HFの発症を低減させる確立された治療法は存在しない。前臨床試験ではβ3アドレナリン受容体の活性化によりLV機能を損なうことなく、心筋肥大などを軽減できることが実証されている。そこで、今回、ヒトを対象にβ3アドレナリン受容体に選択的に作用するミラベグロンが、LV収縮能が保持されたHF(HFpEF)につながる有害な心筋リモデリングの進行を予防できるかについて、安全性も併せて検証した。

 同試験では欧州8カ国の10施設において、LVMI高値(女性95g/m2以上、男性115g/m2以上)または拡張末期壁厚13mm以上で、無症状またはニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類Ⅱ以下のHF症状を有する18歳以上の患者296例を登録。標準治療にミラベグロン(50mg/日)を上乗せする群(147例、男性79%、平均年齢64.0歳)とプラセボを上乗せする群(149例、同75%、62.2歳)に1:1でランダムに割り付け、12カ月間治療した。主要評価項目は、12カ月時点の心臓MRIによるLVMIおよびドプラ心エコー法により評価したLV拡張機能(E/e')とした。

 解析の結果、共変量を調整後の12カ月時点のミラベグロン群におけるプラセボ群との差は、LVMIが1.3g/m2(95%CI -0.15~2.74g/m2、P=0.08)、E/e'が-0.15(同-0.69~0.4、P=0.60)で、いずれの主要評価項目に関しても2群間で有意差はなかった。年齢(65歳以下 vs. 65歳超)、性、ベースラインのBMI(30以下 vs. 30超)、居住国、2型糖尿病心房細動、β遮断薬使用の有無で層別化したサブグループ解析でも、結果は同様だった。

 さらに、主な副次評価項目とした12カ月時点の間質性心筋線維症(心筋細胞外容積分画)、左房容積係数、1回拍出量係数、右室(RV)駆出率、最大運動能力(最大酸素消費量)、インスリン抵抗性(HOMA)、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)に関しても、2群間で有意差はなかった。

有害事象も差なし、過去の第Ⅲ/Ⅳ相試験より高リスク群で

 有害事象の発現は、ミラベグロン群が82例・213件(うち重篤な有害事象19例・31件)、プラセボ群が88例・215件(同22例・30件)で、試験中の死亡例はなかった。Beta3-LVH試験は、過去の過活動膀胱患者を対象にしたミラベグロンの第Ⅲ/Ⅳ相試験よりも重度の心血管リスクプロファイルを有する患者における有害事象を評価した初のプラセボ対照RCTだが、ミラベグロン群とプラセボ群で有害事象の発現率に差はなかった。

 以上の結果から、Balligand氏らは「ミラベグロン標準用量(50mg/日)12カ月間投与は、標準治療を受けているpre-HFまたは軽度HF患者のLV機能、RV機能、運動能力に悪影響を及ぼさなかった」と結論。「今後の試験で、心筋リモデリングおよび心筋機能に対する、より長期の影響を検討する必要がある」と付言している。

(太田敦子)