足の悩み、一挙解決
ダメージが蓄積して起こる疲労骨折(足のクリニック表参道 菊池恭太医師) 【PART2】第12回
今回は、急激に起こるねんざとは異なり、慢性的な負荷が少しずつ蓄積することで起こる、疲労骨折について解説します。
特にけがをしたわけでもないのに、痛みが続く場合は、疲労骨折の可能性についても考えてみましょう。
疲労骨折のメカニズム
◇骨は常に生まれ変わっている
疲労骨折とは、瞬間的に外からの力が加わるわけではなく、反復する力がかかることによって骨折に至るものです。痛みが発生したときに急に発生したように感じますが、ずっと少しずつ慢性的な経過で起こっているのです。
骨は硬いので、固まりのまま存在するようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、皮膚と同じように常に新陳代謝を繰り返しています。骨に運動負荷がかかると、ポキッと折れるわけではなくても、細かい組織レベルで傷つく微小骨折(マイクロクラック)を起こします。その微小な骨折を新陳代謝でどんどん再生していきます(リモデリング)。それが追い付けば骨折には至らないのですが、骨のリモデリングが追い付かないレベルで負荷が入り続ければ、徐々に微細な損傷がどんどん大きくなってポキッと折れてしまうわけです。
ただ歩くだけという日常レベルの運動負荷でも、負荷と再生のバランスが崩れれば、疲労骨折は起こります。例えば、中足骨の疲労骨折はマーチ骨折とも言われますが、たくさん歩くことで、骨にしなる力が働き、少しずつ骨にダメージを与えます。新陳代謝による修復が追い付かないとだんだん傷んでいって、痛みを感じるようになります。整形外科を受診してレントゲンを撮っても「骨折はしていないですよ」と言われ、そのままになってしまうことがよくあります。それを、放置しておくと最終的にはポキッと折れてしまうのです。一連のこの過程が疲労骨折です。
疲労骨折を起こしやすい部位
◇若者と高齢者、二つのパターン
疲労骨折には二つのパターンがあり、骨は正常でも負担が大きいために起こる若者のスポーツ障害と、負担は日常生活レベルでも、骨が非常にもろいため、日常生活のストレスにも耐えられなくて、疲労骨折に至る脆弱(ぜいじゃく)性骨折があります。
男性アスリートの場合は、運動負荷が高いために起こりますが、女性アスリートは思春期の月経異常や運動量に見合ったエネルギー摂取ができていないために骨の代謝が乱れて疲労骨折に至る場合があります。当然、骨粗しょう症の人も疲労骨折(脆弱性骨折)のリスクは高くなります。
疲労骨折を起こしやすい部位は、足でいうと中足骨、舟状骨、足首の内くるぶし、特にサッカー選手では第五中足骨基底部も多くみられます。
◇早期発見にはエコーかMRI
疲労骨折に早く気付くには、足の痛みを感じたとき、放置せずに原因をきちんと突き止めることが大切です。特にけがをしたわけではなくても、疲労骨折は起こりますから、ポキッと折れて強い痛みが発生する前の段階で、できるだけ早く対策を取るようにしましょう。
早期発見のためには超音波検査(エコー)やMRIが有効です。本格的な骨折に至る前の段階でも骨膜に変化が出ていますので、疲労骨折を発見することができます。レントゲン画像だけでは、完全に折れる前の段階では見つけることは困難です。プロのサッカーチームなどでは、疲労骨折のリスクが高いことがわかっているため、定期的にエコーやMRI検査を行っているところもあります。
疲労骨折のレントゲン画像。受傷から2週間後の状況で、右側は骨折部位を拡大画像。中指の基部に亀裂(骨折線)が見える。(「足のクリニック表参道」提供)
◇ストレッチ、インソールで負荷を減らす
疲労骨折の治療は、まず足にかかる負担を取り除くことが必要です。痛みがかなり強い場合は、ギプス固定などをすることもありますが、けがをしたときの骨折とは異なり、慢性的な経過として起こっているので、安静にしすぎても機能が低下してしまい、逆効果になる場合もあります。また、一定期間休んだとしても、再び同じ状態で活動を開始すれば、同じストレスがかかり、疲労骨折を繰り返すことになります。
繰り返さないためには、足の機能を改善し、インソールで足の骨格を整えるなど、負担がかかりやすい環境を変える必要があります。たとえば、アキレスけんが硬いために中足骨に負担がかかりやすい状況なら、アキレスけんのストレッチをします。長座をして、足首が直角の状態から10度以上反らなければ、アキレスけんが硬いといえます。どこにもつかまらず、両足の裏をべったりと地面につけたまま、しゃがむことができるかどうかも目安になります。
一方、筋力不足が原因なら筋力トレーニングを行います。疲労骨折の原因が何かを突き止めた上で、運動指導を行うことが重要です。
足の疲労骨折は、扁平(へんぺい)足やハイアーチなど、足の形が影響して起こりやすくなることもあります。この場合は、インソールを使って足の骨にかかる物理的なストレスを減らすことができます。
◇急に運動を始めるのは危険
足は体重を支えていますから、立っているだけでも常に負担がかかっています。日ごろ運動不足だった人が、健康のために歩いたり、ランニングを始めたりすると、足への負担が急激に増して、疲労骨折を起こしやすくなります。
毎日1万歩を歩いていれば、足には1万回の物理的ストレスがかかり、そのたびに骨に全体重がかかっているわけですから、中高年の方は日常生活レベルでも疲労骨折は起こります。中高年の方が運動を始める場合は、最初から頑張り過ぎずに、様子をみながら少しずつ慣らしていくことが大切です。(文・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)
菊池恭太医師
菊池 恭太(きくち きょうた)氏
2002年北里大学医学部卒業、足のクリニック表参道非常勤医師。横浜総合病院整形外科医長を経て、16年から下北沢病院整形外科足病総合センター長。北里大学病院整形外科足外来非常勤医師、杏林大学附属病院形成外科足外来非常勤講師。日本整形外科学会専門医、日本フットケア足病医学会評議員。
全国から患者が殺到するクリニック
「足のクリニック表参道」院長。2004年埼玉医科大学医学部卒業。同大学病院形成外科で外来医長、フットケアの担当医として勤務。13年東京・表参道に日本では数少ない足専門クリニックを開業。専門医、専門メディカルスタッフによるチームで、足の総合的な治療とケアを行う。
日本下肢救済・足病学会評議員。著書に「元気足の作り方 ― 美と健康のためのセルフケア」(NHK出版)、「外反母趾もラクになる!『足アーチ』のつくり方」(セブン&アイ出版)など。
(2021/03/03 05:00)
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