筋肉に繰り返し負荷をかけるレジスタンス運動は、高齢者において最大筋力および瞬発力(筋パワー)の向上と関連することが示されている。しかし、高齢者の運動による最大筋力、筋パワーの変化率と負荷との関連性についてのエビデンスは十分でない。そこでブラジル・Universidade Federal do Rio Grande do SulのEduardo L. Cadore氏らは、入院後48時間以内に登録した急性期の高齢患者を対象としてたランダム化比較試験(RCT)の二次解析を行い、短期・多要素の運動が最大筋力と筋パワーに及ぼす効果を検討。3日間にわたる多要素の運動が高齢の急性期入院患者の筋力を増強させるとの結果をJ Cachexia Sarcopenia Muscle(2023年11月21日オンライン版)に発表した。

平均年齢87.7±4.8歳の90例を解析

 この研究は、スペインの公立三次医療機関Hospital University of Navarraで実施されたRCTの二次解析。解析の対象は、肺疾患/心不全感染症による入院患者90例(平均年齢87.7±4.8歳、女性39例)で、短期かつ多要素の運動を実施する介入群の44例と必要に応じて理学療法を実施する標準的ケアを行う対照群の46例だった。

 組み入れ基準は75歳以上、入院2週間前のBarthel Indexが60以上、補助あり/なしで歩行可能、研究チームとコミュニケーションが図れることとした。除外基準は入院日数が6日未満、著しい認知機能低下が見られる、終末期、制御できない不整脈、急性の肺塞栓症/心筋梗塞、3カ月以内の骨折歴とした。

レジスタンス運動、バランス訓練、歩行訓練を実施

 介入群では、個々の患者の状況に応じたパワーリハビリテーション、バランス訓練、歩行訓練で構成される20分間の多要素運動を入院中に連続3日間朝と午後の2回行った。パワーリハビリテーションではトレーニング機器を使用したレジスタンス運動を行い、主に下肢の筋肉を使用する3つの運動(椅子から立ち上がるスクワット、レッグプレス、双方向膝伸展)と上半身の筋肉を使用するエクササイズ(坐位でのベンチプレス)を実施した。

 ベースライン時および退院時の評価項目は、レッグプレスとベンチプレス運動における1回反復最大テスト(1RM)による最大筋力、レッグプレス運動における異なる負荷(1RMの30%以下および1RMの45~55%)での筋パワーとした。10回反復時の平均ピークパワーは、1RMの45~55%の負荷で評価した。

いずれの評価項目とも介入群で改善

 退院時評価項目を見ると、介入群ではレッグプレス1RMで19.2kg(平均変化率40.4%、95%CI 12.1~26.2kg、P<0.001)、ベンチプレス1RMで2.9kg(同19.7%、0.6~5.2kg、P<0.001)有意に増加した。負荷が1RMの30%以下において、ピークパワーが18.8W(同69.2%、8.4~29.1W、P<0.001)、平均推進力が9.3W(同26.8%、2.5~16.1W、P=0.002)有意に増加した。1RMの45~55%の負荷においては、ピークパワーが39.1W(同60.0%、19.2~59.0W、P<0.001)、平均推進力が22.9W (同64.1%、11.7~34.1W、P<0.001)有意に増加した。10反復中の平均ピークパワーは20.8W(同36.4%、3.0~38.6W、P=0.011)有意に改善した。対照群では、いずれの評価項目とも有意な変化は見られなかった。

 以上の結果から、Cadore氏らは「個別化された多要素の運動を連続3日間実施することで、急性期の高齢患者の筋力・筋パワーが改善できる」と結論。「高齢者の長期臥床リスクを低減させる要素として、パワーリハビリテーションを含む多要素の運動が支持される」と付言している。

栗原裕美