東邦大学循環器内科の松本新吾氏らは、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)サクビトリルバルサルタンを新規に処方された心不全患者を対象に、日本初となる全国規模の多施設共同研究REVIEW-HFを実施し、リアルワールドにおける患者の特徴と転帰を調査した。その結果、サクビトリルバルサルタンはランドマーク試験の対象外の患者にも処方されており、有害事象は3カ月で22.5%に認められたとJ Cardiol2023年11月22日オンライン版)に報告した。

血圧、高カリウム血症他の複合を評価

 サクビトリルバルサルタンは日本においては2020年8月に慢性心不全を適応症として発売されたが、実臨床におけるエビデンスは不足しており、特に海外と比べ承認の遅かった日本では忍容性などに関して不明な点が多い。そこで松本氏らは、サクビトリルバルサルタンを使用している心不全患者の特徴と転帰を評価するためREVIEW-HFを実施した。

 対象は、2020年8月〜21年8月にサクビトリルバルサルタンを新規処方された20歳以上の左室駆出率(LVEF)全サブタイプの心不全患者とした。電子データ収集システムを用いて、患者カルテからベースラインの特徴と、2週時、1カ月時、3カ月時、6カ月時、1年時の検査所見を含む事前に規定した縦断的なタイムポイントデータを収集した。

 主要評価項目は、サクビトリルバルサルタンの投与開始後3カ月以内に発生した同薬に関連する可能性のある初回の有害事象とし、低血圧、高カリウム血症、腎イベント、血管浮腫の複合と定義した。

NYHA Ⅲ〜Ⅳ、収縮期血圧100mmHg未満、eGFR 30未満で高リスク

 最終解析には993例(平均年齢70歳、女性291例)が登録され、そのうち549例(55.3%)がLVEFが低下した心不全(HFrEF)、218例(22.0%)がLVEFが軽度に低下した心不全(HFmrEF)、226例(22.7%)がLVEFが維持された心不全(HFpEF)だった。70歳以上が56.8%、80歳以上が24.8%と高齢者が多く、ランドマーク試験で除外されていた収縮期血圧低下例(100mmHg未満)は20.8%、腎機能低下例〔推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満〕は19.5%だった。

 サクビトリルバルサルタンに関連した有害事象は投与開始後3カ月で22.5%に認められ、低血圧が20.0%で最多だった。有害事象の発生率にLVEFのサブタイプによる差はなかった。

 全体で22.6%の患者がサクビトリルバルサルタン投与を中止し、中止の原因としては低血圧が最も多かった。LVEFのサブタイプ別ではHFpEF患者で有意に多かった(HFrEF 20.6% vs. HFmrEF 22.0% vs. HFpEF 27.9%、P=0.04)。

 サクビトリルバルサルタン開始後3カ月以内において同薬関連有害事象の発生率が高かったのは、心不全の症状が悪化〔ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類がⅢまたはⅣ〕、収縮期血圧が100mmHg未満、eGFRが30mL/分/1.73m2未満の患者だった。有害事象を経験した患者は経験しなかった患者に比べて、心血管死や心不全による入院のリスクが高かった。

 以上を踏まえ、松本氏らは「有害事象を経験した患者では転帰が悪化したため、特に有害事象リスクが高いと予想される患者にサクビトリルバルサルタンを使用する場合には注意深く観察すべきである」と述べている。

(今手麻衣)