嘔吐の繰り返しに注意=マロリー・ワイス症候群
お酒を飲む機会が増える時期に注意したいのが、「マロリー・ワイス症候群」。聞き慣れない病名だが、ムラタクリニック(東京都港区)の村田洋子院長は、「飲酒後などに激しい嘔吐(おうと)を繰り返すと、約50%の人がこの病気になると言われています」と警鐘を鳴らす。
◇吐血やみぞおち痛
マロリー・ワイス症候群は、1929年にジョージ・ケネス・マロリーとソーマ・ワイスという2人の医師が初めて発表した。飲食後に嘔吐を繰り返した男性が吐血したため調べたところ、食道の下部から胃にかけて縦状に裂けた傷があった。嘔吐で大きな腹圧が一気に食道下部にかかったせいだ。主な症状は吐血だが、みぞおちの痛みや、染みた感じがするなどの症状を訴える人もいる。
食道内は食べ物を胃に送り込む働きをするため、外部よりも圧力が低い「陰圧」で胃の内容物が逆流しないよう、食道下部の噴門がしっかりと閉じる構造になっている。
一方、胃の内部は圧力が高い「陽圧」で、嘔吐で胃から食道に大きな圧力がかかると、食道下部の粘膜が裂けてしまう。「ひどい場合は穿孔(せんこう)といって、穴が開いてしまうこともあります」と話す村田院長。
飲酒での発症が多いが、乗り物酔いやつわりなどの嘔吐でも起こることがある。逆流性食道炎や、胃の上部が横隔膜から飛び出す食道裂孔ヘルニアがあると、噴門部がうまく閉じないため嘔吐しやすい。日常的に吐く癖がある人も要注意だ。
◇吐血あれば受診を
マロリー・ワイス症候群は自然治癒することもあるが、まれに大量出血を起こす。穿孔して内容物が腹腔(ふくくう)や胸腔内に出たら、開腹、開胸手術が必要になる。村田院長は「嘔吐後に吐血したら必ず受診して、裂傷の程度を調べてください」と話す。
通常は内視鏡検査を行い、出血が多ければクリップを掛けて止血する。出血が少なければ安静にして、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーなどの潰瘍治療薬の服用で治療するという。「治療後は傷が開きやすいので、飲酒をやめ、食事も辛い物や脂っこい物を控えて食べ過ぎないこと」と村田院長。
裂傷が粘膜の下にある筋肉の層にまで達していると、治っても組織が硬くなって弾力が無くなり、裂けやすくなる。「2度、3度と繰り返すと症状が重くなるので、治療後、半年から1年は食生活に気を付けて、過度な飲酒は控えてください」と、注意を呼び掛けている。(メディカルトリビューン時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2017/11/02 08:52)