話題

治験にもっと患者の声を
~情報発信や目標設定に課題~

 医療の現場や政策決定に患者の声を生かす「患者・市民参画(PPI=Patient and Public Involvement)」への関心が高まっている。新しい治療や薬の開発の過程で安全性や有効性を確認するために行われる臨床試験(治験)ではどう進めればいいか。医師やがんサバイバーによる公開パネルディスカッションが東京都内で開かれ、治験の情報発信や、目標設定の在り方などの課題が浮き彫りになった。

治験における患者・市民参画について話し合う(左から)桜井なおみさん、東光久医師、斎藤光江医師=東京都港区

 ◇届きにくい患者の声

 外資系製薬会社アストラゼネカの主催。順天堂大学医学部付属順天堂医院乳腺科の齊藤光江教授、奈良県総合医療センター総合診療科の東光久部長、がんサバイバーとしてがん患者や家族の支援に取り組む「キャンサー・ソリューションズ」の桜井なおみ代表が登壇し、まず、それぞれが取り組んでいる活動とPPIとの関わりについて話した。

 桜井さんは2004年、37歳の時に乳がんが見つかり、勤めていた設計事務所を治療のため休職。いったん復職したが、その後退職し、自身の闘病体験を踏まえて働くがん患者の支援事業を立ち上げた。「がん患者になって、医療には消費者としての患者の意見を聞く場所があまりないと感じた。PPIを日本でもっと進めて、患者が多様な価値観を取り込むことで臨床試験の質も良くなっていくのではないか」と期待する。

桜井なおみさん

 東医師は19年、がん患者が積極的に病気と向き合い、より良い医療を受けるための「患者力」を身に付けることを目指す活動に取り組むために、医師や看護師、薬剤師、作業療法士、生活相談員らと共に「Patient Empowerment Program(PEP)」を設立した。「患者力を患者が一人で身に付けることは難しく、医療者のサポートが必要。医療者が患者の心に向き合うことで、患者が変わり、医療者も変わる」と言う。

 齊藤医師は長年の乳がん診療での経験を踏まえ、新しい治療法や治療薬の開発段階から副作用についても目配りしていくための研究会「患者にやさしいがん医療サイエンス(ISPACOS=International Society of Patient-Centered Oncology Science)」を18年に設立。「副作用に対処する支持療法を後付けで開発しようとすると、費用やマンパワーの面で大変」と、活動の背景を説明した。

 ◇治験に対する啓発

 近年、製薬企業においても医薬品開発に患者の声を取り入れる機運が高まっているという。パネルディスカッションを主催したアストラゼネカでは21年11月と22年3月に、がん患者を対象に治験に関する啓発や課題の掘り起こしを行う「模擬治験ワークショップ」を開催。今後も継続していくほか、同社が日本で行っている治験に関する情報をホームページに公開する準備を進めているという。

東光久医師

 治験は新しい薬の安全性や有効性を評価する開発過程の欠かせないプロセスだが、一般には十分理解されているとは言えない。東医師は地方都市の一般の市中病院で診療を行っている立場から、「治験というと、患者だけでなく医療者自身にとっても遠い存在」と語る。患者力について啓発し、病気を自分のこととしてとらえてもらうことが、治験への関心を高めることにつながるとの考えを示した。

 新薬の開発では生存率や生存期間の観点から評価することが多いが、斎藤医師は「患者の一番の願いは、治りたいということ。今まで通りの家庭生活を運営できること。治療を受ける中で、副作用を最小限にするノウハウを開発してほしいというのが現場の大きなニーズです」と強調。支持療法のガイドラインを踏まえたデータがあれば、「治療のヒントが得られる」と期待する。

 ◇もっと身近にするには

 治験を身近にするにはどうすればいいのだろう。桜井さんは「情報」「プロセスの共有」「教育」の三つを挙げる。「どこで治験をやっているかという情報を、もっと探しやすくする仕組みがほしい。私自身が参加した治験の結果を後から論文で見てショックを受けたことがある。プロセスと結果を共有できると、自分たちのデータが次の人たちのために活用できたという気持ちになる。がん教育は命の大切さだけになりがちだが、薬がどうやって手元に届くのか、値段は誰が決めているのか、ということを知ることで人の行動が変わるかもしれない」と話した。

齊藤光江医師

 ただ、情報の収集能力は人それぞれ。都心の大学病院に勤務する齊藤さんを受診する女性患者は「リサーチ力があって、もともと情報を積極的に取りに行く姿勢の人」が多いという。ところが、その情報が古かったり、詳細が分からなかったりすることもある。「もっと分かりやすい形で情報が提供されて、医療者も患者も一緒に調べられるシステムが必要」と指摘した。

 教育について齊藤さんは企業の役割にも期待する。「企業の財力、マンパワーは大きい。治験とは何か、が分かる冊子やビデオがあれば、主治医の仕事も軽くなるし、患者も治験に興味を持ってくれると思う」

 がんは今や、日本人の2人に1人がかかるとされ、周囲の人も含めれば誰もが無縁ではいられない病気だが、なってしまったことを恥ととらえる「スティグマ」も根強い。東医師は「がんへのスティグマと共に、治験に対するスティグマもある」と語り、患者と医療者の双方への啓発を呼び掛けた。(了)

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