スイス・University Hospital BaselのFabienne Baur氏らは、標準的な禁煙治療へのGLP-1受容体作動薬デュラグルチドの上乗せ効果を検証したプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)の二次解析結果をBMJ Nutr Prev Health (2023年12月19日オンライン版)に報告。「デュラグルチドは禁煙後の体重増を抑制し、その効果は特に女性において顕著であった」と述べている。

GLP-1受容体作動薬にはニコチン消費抑制作用も?

 GLP-1受容体作動薬にはインスリン分泌増強作用に加え、グルカゴン分泌抑制、胃排出遅延、食欲抑制などの作用があり、2型糖尿病だけでなく、肥満症治療薬としても既に臨床応用されている。

 GLP-1受容体作動薬はまた、複数の前臨床研究やパイロット試験において、ニコチンの消費を抑制することが示唆されており(Nicotine Tob Res 2021; 23:1682-1690)、禁煙治療薬としての可能性も注目されている。

 Baur氏らは、標準的な禁煙治療(バレニクリン2mg/日 + 行動カウンセリング)にデュラグルチド(1.5mg/週)またはプラセボ(9%生理食塩水)を上乗せする12週間のRCTを実施。禁煙に対するデュラグルチドの上乗せ効果は見られなかったがEClinicalMedicine 2023; 57: 101865)、禁煙後の体重増加はデュラグルチド群で抑制された。今回、事前に設定された二次解析を実施し、群別および男女別の禁煙後の体重変化を詳細に検討した。

女性の多くが大幅な体重増加を回避

 試験は2017年~22年にUniversity Hospital Baselで実施された。1日20本(中央値)の喫煙習慣がある18~75歳の255例を、デュラグルチド群(127例、女性83例)とプラセボ群(128例、女性72例)に割り付けた。

 12週後、デュラグルチド群の女性の61%、男性の64%が、プラセボ群ではそれぞれ63%、65%が禁煙に成功した。

 試験終了時点の体重はプラセボ群に比べ、デュラグルチド群で有意に低下し(P<0.001)、同一群内で体重の変化幅に男女差はなかった。

 6%超の体重増加を大幅な体重増加(substantial weight gain)と定義し、両群で割合を比較したところ、女性ではデュラグルチド群の1%(1例)、プラセボ群の24%(17例)で大幅な体重増加が見られた(P<0.001)。一方、男性では、デュラグルチド群の0%に対し、プラセボ群では5%(3例)だった(P=0.333)。

体重増が禁煙の障害となる女性には有用か

 Baur氏らは「女性喫煙者は男性に比べ、禁煙により大きな困難を感じるようだ。その背景には禁煙後の体重増加への懸念が存在する可能性がある」と考察。今回の結果については、「試験前の予想に反し、禁煙に対するデュラグルチドの上乗せ効果は、少なくとも短期的には見られなかった。しかし、女性にとって大きな懸念材料である喫煙後の大幅な体重増加を抑制できたことから、デュラグルチドは体重増加リスクが高い女性の禁煙場面では、ベネフィットを提供できるかもしれない」と述べている。

木本 治