肥満症〔ひまんしょう〕 家庭の医学

 メタボリックシンドロームと密接に関連するため、概略を述べます。
 まず、肥満とは単に体重が重いことではなく、体内の脂肪組織が過剰に蓄積した状態をいいます。体脂肪は、エネルギー補給機能、体温を維持するための断熱作用、内臓の保護作用などのよい役割をになう一方、過剰に蓄積した状態は健康障害をきたすリスクとなりえます。
 肥満であるかどうかは体脂肪量によりますが、体脂肪量をはかる簡便な方法がないため、指標としてBMI(Body Mass Index)が世界的に広く用いられています。WHO(世界保健機関)による肥満の判定基準は、BMI30以上が肥満です。いっぽう、日本ではBMI25以上を肥満としています。これは日本肥満学会が定義した基準で、日本人はBMIが25を超えたあたりから、耐糖能障害、脂質異常症高血圧といった合併症の発症頻度が高まるといわれています。

●肥満度の分類
BMI(kg/m2判 定
(日本肥満学会)
WHO基準
<18.5 低体重Underweight
18.5≦~<25 普通体重Normal range
25≦~<30 肥満(1度)Pre-obese
30≦~<35 肥満(2度)Obese classⅠ
35≦~<40 肥満(3度)Obese classⅡ
40≦ 肥満(4度)Obese classⅢ




 肥満症とは、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態をいい、疾患単位として取り扱うと定義されています。

<肥満症の診断>
 肥満(BMI 25以上)と判定されたもののうち、以下のいずれかの条件を満たすもの
1.肥満に起因ないし関連する健康障害を有するもの
 *耐糖能異常、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、月経異常・不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)・肥満低換気症候群、運動器疾患、肥満関連腎臓病
2.腹部CT検査により測定した内臓脂肪面積が100cm2以上の内臓脂肪型肥満を有するもの

 内臓脂肪型肥満の判定手順は、スクリーニングとして、立位、軽呼気時でのウエスト周囲長(へその位置)を測定し、男性で85cm以上、女性で90cm以上であれば、内臓脂肪型肥満を疑い、確定診断は腹部CT検査によっておこないます。へその高さで内臓脂肪面積が100cm2以上であれば内臓脂肪型肥満と判定します。

 肥満症の治療ですが、現体重の3%以上の減量目標を設定して行動療法(肥満症治療食、運動療法)をおこない、目標が達成できなかった場合は、肥満症治療食の強化をおこなったり、薬物治療の開始を考慮します。高度肥満症(BMI 35以上で、健康障害あり、または内臓脂肪蓄積あり)の場合は、現体重の5~10%の減量目標を設定して行動療法をおこない、目標が達成できない場合は、超低エネルギー食を含む肥満治療食の強化、薬物治療をおこなったり、外科治療(腹腔鏡下胃スリーブ状切除術)をおこないます。薬物治療では国内で約30年ぶりとなる肥満症の治療薬が近く保険で使えるようになり注目を集めていますが、あくまでも肥満症(健康障害を伴う肥満)に対して使用すべきもので、美容・痩身・ダイエット等の目的で、低体重・普通体重の人や健康障害を伴わない肥満に対して用いてはならない点に、十分注意をしてください。なお、肥満に関連した健康障害の一つに精神疾患がありますが、高度肥満症ではメンタルヘルスの問題をもつ人も少なくなく、メンタルヘルスの評価や心理的サポートも重要です。

 内臓脂肪型肥満は種々の病気のリスクとして問題になっていますが、高齢者におけるフレイルや、痩(や)せ妊婦による低出生体重児の出産など、過度な減量や痩せが健康障害につながる可能性にも注意が必要です。低体重の女性は低出生体重児を出産するリスクが増加し、低出生体重児は成長後肥満になりやすく、糖尿病や心血管病などの発症リスクが高まるといわれています。日本肥満学会における基準範囲の下限はBMI 16.8kg/m2という設定もあることから、減量時には注意が必要です。

(執筆・監修:東京女子医科大学 教授〔内科学講座 糖尿病代謝内科学分野〕 中神 朋子
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