超高齢化社会に伴い、高齢者の医療費の増大が問題となっている。そのような中で期待が集まっているのが、ポケットエコーを活用した診療だ。GEヘルスケア・ジャパンは12月13日にメディア向けセミナーを開催。ポケットエコーの医療経済への影響をテーマに、医療法人社団悠翔会理事長/診療部長の佐々木淳氏と同社超音波本部/Primary Care部部長の麻生光氏がトークセッションを行った。

肺炎骨折心不全もポケットエコーで即時診断

 麻生氏らは、同社が保有するリストを基に、1万800人に対してポケットエコーの利用実態に関する調査を実施し、624人から有効回答を得た。今回は、医師は303人の結果について報告した。ポケットエコー所有者は184人で、うち在宅/訪問診療医は56人だった。

 ポケットエコーの有用性について尋ねたところ、ポケットエコーを所有する在宅/訪問診療医の95%が有用性を感じると回答。その理由として82.6%が即時診断が可能である点を挙げ、使いたいときにすぐに使えること、手技の安全性の確保や利用シーンの多様さなども挙げられた。

 この点について、佐々木氏は「これまでは在宅でできる検査は限られていたが、最近ではポケットエコーの診断領域が広がっている」とし、「血管や皮膚といった領域まで確認できる。以前はX線画像から診断していた肺炎骨折心不全もポケットエコーで診断できるようになった」と説明した。

 さらに同氏は「胃瘻のチューブ交換時にチューブが胃に届いているかを確認する際にも使用している。患者も付き添いの家族も、チューブ交換のためだけに病院に足を運ぶ必要がない」と在宅医療での活用事例を挙げた。

医師・患者・家族の時間的・経済的コストを低減、医療経済の適正化へ

 麻生氏らはポケットエコー活用による受診時間の変化にも着目。患者の受診時間の短縮率を算出したところ、37.9%という結果を得た。また、医師の診察時間の短縮率は45.6%とより大きかった。

 これについて、佐々木氏は「ポケットエコーで診断できるため、暫定的な治療をすぐにスタートでき、患者・医療者双方にとってメリットが大きい」と説明。同氏は「在宅医療ですぐに診断が付けば、精密検査で大学病院などを受診するケースが少なくなる。受診困難者が増えることが想定される超高齢社会において、紹介受診の減少が有用であるだけでなく、医療経済の適正化にもつながる」とコメントした。

再入院の抑制で84億円の医療費削減?

 また麻生氏は、ポケットエコー活用による再入院の抑制についても調査。ポケットエコーを所有する在宅/訪問診療医56人の37.5%が再入院の減少につなげており、1年当たり5.4件の再入院を抑制した(図1)。同氏は、この割合から全国の訪問医療機関の医師がポケットエコーを活用し再入院を抑制したと仮定した場合の医療コスト削減の概算を算出。ポケットエコーを持っている在宅/訪問診療医が全国に1,675人と存在し、年間約9,000件の再入院を抑制した場合、約84億円の医療費削減になると報告した。

図1. ポケットエコーを活用して再入院を抑制した件数

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 東京都の救急搬送件数は90万件。うち6割が高齢者で、75歳以上の割合は年々増加している。緊急で医療を必要としない社会的入院や体調不良への対応に困っての救急要請も増えており、救急医療を逼迫させている。同氏によると、現在、在宅医療を受けている高齢者は全国でわずか100万人程度。「今後在宅医療の利用が増え、プライマリケアで支えられる患者が増えれば、救急医療の負担や入院医療費の低減につながる」と展望した。

早期発見で1回当たり10万円弱の救急受診コストの削減も

 さらに麻生氏は、ポケットエコーを活用して疾病を早期発見した件数についても調査。在宅/訪問診療医で年間10.3件の早期発見につなげていたことが分かった(図2)。

図2. ポケットエコーを活用して疾病を早期発見した件数

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(図1、2ともGEヘルスケア・ジャパン提供)

 救急搬送1回当たりのコストは、救急搬送にかかる行政コストと緊急受診、検査にかかる医療コストを合わせると10万円弱と試算される。佐々木氏は「早期治療による救急搬送および入院の抑制は、真に必要とする人だけが病院を利用できることにつながる」とコメント。さらに、早期発見が入院期間の短縮につながることのメリットについても指摘した。「高齢者にとって入院期間の延長は、筋力や認知機能の低下など入院関連機能障害のリスクになる。長引く入院で退院時の介護度が高くなることは、先々の社会的コストに影響する。そういった意味では、ポケットエコーによる早期発見の波及的効果は大きい」と付け加えた。

 同氏は「日本では地域でカバーできる医療領域が狭い一方で、患者が医療に求めるレベルが高いことから、これまでは病院でなければ患者が満足する医療は提供できなかった」と述べた。しかし「技術の進歩により在宅で診断・治療ができる領域も増えている。患者との信頼関係が構築できれば、むやみに病院に行くという選択もしなくなるはず。1人1人が考え、本当に必要な人だけが病院を利用することで、医療費は適正化されていく」と締めくくった。

栗原裕美