大分大学神経内科学講座准教授の木村成志氏らは、リストバンド型生体センサーを用いて脳内のアミロイドβ(Aβ)蓄積を予測する世界初の機械学習モデルを開発したとAlzheimers Res Ther2023; 15: 212)に発表。生体データや生活データを収集し、患者の背景情報と組み合わせる同モデルの活用により、アルツハイマー病の重要な病理である脳内Aβの蓄積に関するスクリーニングを可能にすることが期待されるという。

脳内Aβ検査には課題多い

 脳内Aβの蓄積はアルツハイマー病の起因とされ、Aβを標的とした新たな治療薬の開発が進められている。今年(2023年)12月には、国内初のアルツハイマー病治療薬であるヒト化抗ヒト可溶性Aβ凝集体モノクローナル抗体レカネマブが承認されている。

 レカネマブは、脳のアミロイド病理が確認された早期アルツハイマー病アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度の認知症〕の進行抑制を適応としており、早期に適切な患者を選択し介入する必要がある。しかし、脳内Aβ蓄積の確認のために行われるアミロイドPETや脳脊髄液検査は、①実施施設が限られる、②費用が高額、③身体への侵襲性が高い―ことが課題とされてきた。

 木村氏らは、リストバンド型生体センサーを用い、患者の身体活動、睡眠、発話、心拍数などの「生体データ」を収集。問診で得た「生活データ」(家族との同居、就労、外出頻度、移動手段、地域活動への参加など)や「当事者背景」(年齢、教育歴、飲酒歴、既往歴)を組み合わせサポートベクターマシン、Elastic Net、ロジスティック解析の3つの機械学習技術を用いて予測モデルを構築し、その性能を評価した。

複数のデータ組み合わせ性能向上

 予測モデルは、2015年8月~19年9月に大分県臼杵市で実施されたコホート研究のデータを用いて構築した。対象は、MCIまたは主観的な記憶障害のある65歳以上の122例(女性68例、年齢中央値75.5歳)。リストバンド型生体センサーを3カ月ごとに約7日間装着して生体データを収集するとともに、問診による生活データの収集、アミロイドPET検査(年1回)を3年間行った。

 その結果、Elastic Netを用いて生体データから構築した予測モデルの曲線下面積(AUC)は0.70で、生活データと当事者背景を追加して構築した予測モデルではAUCが0.79と予測精度が向上した。

 また、Aβ蓄積の予測に寄与する22の因子(身体活動、睡眠、心拍数、会話量、年齢、教育期間、子供との同居の有無、移動手段、病院への付き添いの有無、コミュニケーションの頻度、外出の回数)も見いだした。

 以上を踏まえ、木村氏らは「リストバンド型生体センサーを用いた脳内Aβ蓄積予測モデルを開発することができた。同モデルは、アミロイドPETや脳脊髄液検査を必要とする個人の特定に役立つ可能性がある」と結論している。

(植松玲奈)