【ニューヨーク時事】新タイプの肥満症治療薬の利用者が、「肥満大国」とされる米国を中心に世界で急増している。日本でも今年2月22日に発売。2030年までに市場規模が1000億ドル(約14兆5000億円)と16倍に成長するとの予測もあり、世界経済を揺るがし始めた。
 先駆けとなったのが、デンマーク製薬大手ノボノルディスクの「ウゴービ」。21年に米国で承認された。もともと糖尿病のために開発した薬を肥満症治療に応用したもので、食欲を抑制することでやせる効果があるとされる。米イーライリリーは昨年12月、同様の働きを持つ肥満症治療薬を米市場に投入し、米ファイザーなども開発を急ぐ。
 「自信と自分らしさを取り戻せた」。米ニューヨーク在住の女性は23年5月末から治療薬を使い始め、運動食事の見直しも合わせて約半年間で体重を90キロ超から27キロ落とすことに成功。高血圧など肥満との関連が疑われた症状も改善し、効果に満足している。
 米国は成人の約7割が肥満か過体重の「肥満大国」とされ、治療薬の普及に伴う経済的影響もにわかには信じ難いほどの大きさだ。デンマークは23年前半、ノボノルディスクの業績好調が追い風となり、景気後退入りを回避したと分析されている。
 米欧の株式市場では昨秋、薬の効果で人々の食欲が低下するとの予測に基づき、スーパーやスナック菓子の関連銘柄が売り込まれる場面も。さらに、人々の体重が軽くなることで、航空業界が燃料費を大幅に節約できるようになるとの推計を米投資銀行大手が公表して話題を集めた。
 治療薬は、使用している間は食欲が抑えられて痩せるが、やめるとリバウンドするとみられている。日本の金融業界関係者は「人々が薬を手放せなくなり、長期的に売れ続けると見込まれていることが、市場急拡大の期待につながっている」と指摘した。 (C)時事通信社