近年、医療分野において政策決定する際、その過程にステークホルダーが関与する重要性が指摘されている。大阪大学大学院医の倫理と公共政策学分野の古結敦士氏らは、10種の希少疾患の患者・患者家族らとともに、希少疾患当事者が直面する困難の全体像について整理した上で、優先的に取り組むべき研究テーマを抽出。「日常生活の支障」「通院の負担」「遺伝性疾患に特有の心理」など7つのテーマが特に重要であるとRes Involv Engagem2023; 9: 107)に報告した。

25回のワークショップを通して課題を整理

 医療分野では患者が医療現場における意思決定や医学研究に積極的に参画することが求められているが、患者視点を政策の形成過程に効果的に取り込む方法は確立されていない。古結氏らは、希少疾患の患者や患者家族ら当事者を含むさまざまな立場の人が継続的に意見を交わし、政策形成の際に参照可能なエビデンスを生み出していくことを目指したコモンズプロジェクトを設立し、議論を重ねることで合意形成を図った。

 筋強直性ジストロフィー、ハンチントン病マルファン症候群など、10種の希少疾患患者・患者家族21人、研究者17人、行政経験者5人の43人が2019~21年に25回のワークショップに参加。希少疾患患者が直面する困難について議論を重ねたところ、31項目の課題が浮かび上がった。参加者はそれらの課題を生活、研究、社会制度・インフラ、認知理解など10カテゴリーに分類した。

特に優先度の高い基準に適合する項目を抽出

 その上で、優先的に取り組むべき研究テーマについて検討を行った。①心理面や生活面などさまざまなQOLに関わる、②患者の苦痛や負担を軽減し自立へと導くことに関連する、③患者が課題と感じやすく、適切に取り組めば効果を実感できる-など7つの判断基準を設定し、各基準にどの項目が適合するかについて議論した。そして、①および②は将来の希少疾患に関する研究を深めるために特に優先順位が高いとし、この2つの基準に当てはまった項目を抽出した。その結果、生活面に関するテーマ(日常生活の支障、経済的な負担、就労就学の悩み)、精神心理面に関するテーマ(不安、悲観、遺伝性疾患に特有の心理)、医療に関するテーマ(通院の負担)の7項目が浮かび上がった()。またこれらに関する熟議を通して、ステークホルダーが政策形成の過程に関与できることも示された。

図.特に優先度の高い7つの研究テーマ(赤字)

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(大阪大学プレスリリースより)

 古結氏らは「抽出された研究テーマは、希少疾患領域の政策形成の際に参照可能なエビデンスづくりに役立つと考えられる。また今回の研究で用いた手法は、政策形成の過程にステークホルダーが関与する方法として今後の応用が期待される」としている。

(編集部)