日本では、超高齢社会を背景に大動脈弁狭窄症が増加の一途をたどっている。治療法として経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)があるが、術後に予後不良群が一定数存在する。琉球大学循環器・腎臓・神経内科学講座教授の楠瀬賢也氏らは、TAVI治療を受けた重症大動脈弁狭窄症患者1,365例のデータを用いて、人工知能(AI)によるクラスター解析を実施。高リスク群など予後が異なる3つの患者群を特定したとEur Heart J Open2023; 4: oead136)に報告した。

頻脈、低流量/低勾配の大動脈弁狭窄症、心筋障害が多い患者群が予後不良

 楠瀬氏らは、2015年1月~19年3月に国内17施設で重症大動脈弁狭窄症に対するTAVI治療を受けた1,365例の患者データを収集。心エコー検査データや年齢、性、手術リスクを表すSociety of Thoracic Surgeons(STS)スコアなどの臨床パラメータから次元削減で選択した20の変数を用いてK-means法によるクラスタリングを行い、分類されたクラスターとTAVI後の予後との関連を検討した。

 TAVI施行年の層別サンプリングにより、対象を導出コホート(1,092例、80%)と検証コホート(273例、20%)に分けてクラスター解析を行った。その結果、高齢で大動脈弁圧較差が高く左室肥大と関連しているクラスター1(311例)、左室駆出率が保持され、大動脈弁面積が大きく血圧が高いクラスター2(538例)、頻脈、低流量/低勾配の大動脈弁狭窄症、左心および右心機能障害を呈するクラスター3(243例)―に分類された。

 導出コホートでは中央値2.0年(四分位範囲1.0~3.0年)の追跡期間中に主要心血管イベントと全死亡が304件発生し、検証コホートでは中央値2.2年(同1.0~3.1年)の追跡期間中に69件発生した。臨床転帰にはクラスター間で有意差が見られ、Cox比例ハザードモデルで臨床データと心エコーデータを調整した解析の結果、クラスター1および2に対しクラスター3では心血管死と心血管イベントによる再入院の複合リスクが有意に高かった〔ハザード比(HR)4.18、95%CI 1.76~9.94、P=0.001、〕。

図. AIを用いたTAVI治療後の予後に関するクラスタリングの結果

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(琉球大学プレスリリースより)

 以上の結果を踏まえ、同氏らは「重症大動脈弁狭窄症の患者データを用いたクラスター解析により、TAVI後の予後不良の高リスク群を特定した」と結論した上で、「個々の患者に対する最適な治療計画の策定や、心疾患治療の質向上に貢献するとともに、患者のQOL向上への寄与が期待される」と展望している。

(渡邊由貴)