能登半島地震で甚大な被害が生じた石川県珠洲市では、唯一の公立病院「珠洲市総合病院」で、自らも被災した職員らが連日懸命の治療に当たっている。浜田秀剛院長が18日までに時事通信の取材に応じ、地震直後の切迫した様子や、病院が置かれた現状について語った。
 地震が発生した1日午後4時10分、浜田院長は病院から約10キロ離れた自宅にいた。「今まで経験したことのない揺れだった。車で病院に向かったが、道路の損傷が激しく、どこも行き止まり。結局車を乗り捨てて、2時間近く歩いてたどり着いた」と振り返る。
 病院は大きく損壊していなかったが、ほっとする間もなく、外傷を負った患者が次々に運び込まれた。1階の待合室はすぐに避難者であふれ、「治療する患者の優先順位を決める『トリアージ』をする場所をつくるのもままならなかった」。当直や自力で到着した医師・看護師30人ほどで、必死に初期対応に当たった。
 家屋の下敷きになったり、生き埋めになって救助されたりした患者が多く、既に亡くなっている人もいた。受け入れ切れない患者も相次ぎ、「地震と関係のない心疾患で搬送され、病院に着いたが(治療を受ける前に)車の中で亡くなられていた方もいた」と悔やむ。
 浜田院長によると、270人いる病院の職員のうち、地震直後に活動できた人は100人ほどにとどまった。現在も人数不足のため、金沢市や富山県などに転院させざるを得ない患者もいるという。
 今懸念しているのは、院内感染の拡大だ。入院患者の半数はインフルエンザ新型コロナウイルスに感染しているといい、「先が見えない。(看護師派遣などの)病院への支援も今後減っていくのだろうか」と憂慮する。
 浜田院長は生まれも育ちも珠洲市。故郷を襲った惨事に「ただただ胸が痛い。病院職員はほとんどが被災し、家を失ったり、車や病院に泊まったりしている人がいる」と声を落とす。「継続的な医療支援をしてほしいのはもちろん、自分では気付かない『隠れ疲弊』をしている職員もいる。生活環境を早期に整えたい」と語った。 (C)時事通信社