帯状疱疹は、急性期に中等度から重度の疼痛が約6〜7割に発生するとされる。通常、非オピオイド鎮痛薬が使用されるものの、効果がないことが臨床現場ではよく見られる。順天堂大学順天堂医院麻酔科・ペインクリニック教授の井関雅子氏らは、非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られなかった帯状疱疹の急性期疼痛に対し抗てんかん薬のホスフェニトイン静注が有効であることを第Ⅱ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)により明らかにし、有望な代替治療法になりうるとJ Dermatol2023年12月27日オンライン版)に発表した。

ホスフェニトインの鎮痛効果に着目

 帯状疱疹の急性期疼痛は主に侵害受容性疼痛で、帯状疱疹後神経痛は神経障害性疼痛である。これら2つの痛みは発症機序が異なると考えられているが共存する可能性があり、一連の痛みを総称して帯状疱疹関連痛(ZAP)と呼ばれている。急性期の疼痛に対し非ステロイド抗炎症薬(NSAID)やアセトアミノフェンなどの非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない場合、神経障害性疼痛の治療薬やオピオイド鎮痛薬、抗うつ薬、抗てんかん薬などの鎮痛補助薬が適応外使用される。

 井関氏らは、マウス帯状疱疹疼痛モデルにおいて抗てんかん薬フェニトインのプロドラッグであるホスフェニトインの静注が鎮痛効果を示したことに着目し、同薬が帯状疱疹急性期の疼痛、特に自発痛の治療選択肢になりうると想定。今回、非オピオイド鎮痛薬で効果不十分な急性期疼痛を有する帯状疱疹患者を対象に、ホスフェニトイン単回静注の鎮痛効果と安全性を検討する第Ⅱ相二重盲検プラセボ対照RCTを実施した。

国内13医療機関の日本人の成人入院患者が対象

 対象は、2019年7月~21年2月に国内13施設で帯状疱疹の急性期疼痛に対し非オピオイド鎮痛薬では十分な鎮痛効果が得られなかった日本人の成人入院患者。ホスフェニトイン18mg/kg単回静注投与(高用量)群、同12mg/kg単回静注投与(低用量)群、プラセボ投与群に1:1:1でランダムに割り付けた。

 主要評価項目は、ベースラインから投与後30、60、90、120分までのNumerical Rating Scale(NRS)の時間当たりの平均変化とした。NRSは痛みの程度を0~10の11段階で評価する(高スコアほど強い痛み)。

単回静注によりNRSスコアが有意に低下

 適格基準を満たした17例のうち、低用量群6例(年齢中央値62.5歳、範囲39〜75歳)、高用量群5例(同69.0歳、22〜75歳)、プラセボ群5例(同52.0歳、38〜72歳)が解析対象となった。

 ベースラインから投与後120分までのNRSスコアの時間当たりの平均変化は、高用量群−1.2±0.16、プラセボ群−0.3±0.16で、その差は−0.9(P<0.001)、低用量群−0.8±0.14、プラセボ群−0.3±0.15で、その差は−0.5(P=0.016)であった。

 低用量群、高用量群、プラセボ群における奏効率は、それぞれ33.3%(95%CI4.3〜77.7%)、100.0%(同47.8〜100.0%)、20.0%(同0.5〜71.6%)で、高用量群とプラセボ群の間に有意差が認められた(P=0.048)。

 血漿総フェニトイン濃度とNRSの変化には有意な相関関係が認められ(Spearmanの順位相関係数ρ=−0.693、P<0.001)、ホスフェニトインに対する反応性(投与後120分時におけるNRSのベースラインから2ポイント以上の低下)は、血漿総フェニトイン濃度10〜15μg/mL と推定された。

死亡、重篤な有害事象なく忍容性良好

 治療中に死亡や重篤な有害事象は見られなかった。全ての有害事象は投薬の有無にかかわらず管理可能であり、臨床現場で安全性の懸念を引き起こすことはなく、ホスフェニトイン静注の忍容性は良好であった。

 この結果について、井関氏らは「研究期間中に新型コロナウイルス感染症の影響により症例数が限られたこと、今後、鎮痛効果の持続時間や反復投与による鎮痛効果と安全性をさらに検証する必要がある」と指摘。その上で、「ホスフェニトインの単回静注は、帯状疱疹の急性期疼痛に対し効果的かつ有望な代替治療法であると考えられる」と述べている。

宇佐美陽子